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「アスベスト尼崎の会」船越 正信 会長インタビュー 国と企業の責任で真の救済を

2012.11.15

アスベスト裁判で、8月に出された神戸地裁判決は画期的といわれている。その意義について同裁判を支援する「アスベスト被害からいのちと健康を守る尼崎の会」会長の尼崎医療生協理事長・船越正信先生に、尼崎支部の綿谷茂樹副支部長がインタビューした。


アスベスト「公害」認めた画期的判決


 綿谷 まず今回の判決について教えてください。
 船越 裁判は、中皮腫で亡くなったクボタ旧神崎工場周辺住民の遺族が、国とクボタの責任を問い、07年5月に神戸地裁に提訴したものです。27回の弁論を経て、8月に地裁は原告1人に対し、クボタの責任を認め、損害賠償を命じる判決を出しました。一方、国の責任は認められず、もう1人の原告については、クボタからの石綿粉じんが原因である可能性を否定できないとしながら、住宅までの距離などを理由に賠償を認めませんでした。
 綿谷 この判決をどう評価されていますか。
 船越 アスベスト被害はこれまで労働災害とされ、周辺住民は対象になっていませんでした。本判決は、企業が周辺住民に健康被害をもたらした「公害」であると初めて認めた点で、画期的です。のべ2500人超の方の傍聴、「公正な判決を求める署名」7万筆など、全国からの大きな支援のおかげだと思っています。
 ただ、賠償が認められなかった原告がおり、国の責任は全く認定されなかったことは不当だと考えています。

責任を認めない国とクボタ


 綿谷 先生がこの訴訟に関わるきっかけは何だったのでしょうか。
 船越 05年、旧神崎工場の従業員や周辺住民の大規模なアスベスト被害が明らかになりました。「クボタ・ショック」と言われ、旧神崎工場近くに診療所があったこともあり、これは大変だと尼崎医療生協で対策委員会を立ち上げたのです。
 住民への聞き取り調査で関連疾患で亡くなったと考えられる方が次々と見つかり、さらに検診や相談活動を重ねるなかで、想像以上の被害がわかってきました。
 関係団体と連携した大きな運動が必要だということになり、保険医協会尼崎支部などに呼びかけて「アスベスト被害からいのちと健康を守る尼崎の会」を立ち上げたのです。
 綿谷 アスベスト関連疾患とはどのようなものなのですか。
 船越 石綿粉じんを吸い込むことで起こるもので、代表的なものに石綿肺、中皮腫、肺がんがあります。特に中皮腫は、発症してから2年後の生存率が30%と言われ、根本的な治療方法もありません。さらに発見されにくいという特徴もあります。尼崎の肺がんや中皮腫の発生率は、全国平均と比べると数倍から10数倍におよぶことが分かっています。
 綿谷 国やクボタは対策を取っていないのですか。
 船越 クボタは「救済金制度」をつくり、国も06年に「石綿健康被害救済法」をつくりました。しかし、これらはいずれも「救済」であって「賠償」ではないのです。
 綿谷 どういうことでしょう。
 船越 加害責任としては認めていないということです。
 クボタは「石綿を取り扱ってきた企業の社会的責任」として、2012年9月末現在の同社の発表で周辺住民241人に「救済金」を支払っていますが、同社が使用した石綿と被害との「因果関係は不明」としています。また、支給基準はクボタが独自で決めており、中皮腫で亡くなったのに支払われていない例もあります。
 国の救済法も、労災での補償内容とはかけ離れており非常に不十分で、認定されても給付金が300万円と葬祭費用程度に抑えられているなどの問題を抱えています。この間の運動で対象疾患は拡大されましたが、本当の救済にはほど遠いのが現状です。
 相談活動を重ねるなか、遺族から「謝罪がないまま、お金で解決しようとするのは納得がいかない」と声が上がり、責任を問いたいと訴訟に至りました。


危険性認識しながらアスベスト使用


 綿谷 27回におよぶ弁論のなかで、何が明らかになったのでしょうか。
 船越 われわれは弁護団と協力し、国とクボタがアスベストの危険性を認識していた根拠や、クボタが工場周辺にアスベストを飛散させていた事実を明らかにしました。
 国際じん肺会議や医学論文などから、60年には石綿粉じんによる健康被害ないし危険発生の予見が十分可能だったと考えられます。
 一方、日本のアスベストの輸入のピークは74年です。クボタはアスベストを使用して、54~75年まで石綿管を、71~95年に住宅建材を製造し、利益を上げていました。国も補助金などで、これを促進する政策をとっています。
 国とクボタは危険性を認識していながら、アスベストを大量に使用し、飛散防止策をとらなかったのです。
 クボタは「製造工程における自動化・密閉化などを進めたため、石綿粉じんを飛散させたことはない」と言っていますが、われわれは工場近くの団地の住民から「干していた洗濯物がちくちくした」とか「ベランダが粉が降った状態になっていた」などという証言を得ており、また、尼崎労働基準監督署が工場にしばしば立ち入り調査を行い、その都度飛散防止の指導を重ねていたことも示してきました。
 綿谷 これが認められたのですね。
 船越 はい。54年から少なくとも75年に至るまで、クボタが危険性を認識しながら、アスベストを工場外へ飛散させ、周辺住民を危険にさらしていたことが認められました。一方、国の責任については、周辺住民の中皮腫発症リスクが高いという医学的知見は確立していなかったと認められませんでした。
 綿谷 尼崎で公害と聞いて思い出すのは、道路公害によるぜんそく患者たちが国の責任を問うた尼崎公害訴訟ですね。
 船越 ええ。私も原告側医学証人として証言に立ちました。今、ロードプライシングなど道路公害防止のための施策が進んでいるのは、訴訟で被害防止の対策をとらなかった国の責任が認められたからこそです。本当の被害者救済は、企業と国の責任を明確にしないままでは進みません。


長い潜伏期間発症予測9万人超


 綿谷 アスベストは、発症までの時間が長いことも問題ですね。
 船越 はい。潜伏期間が20~40年におよび、因果関係の証明が非常に困難です。特に肺がんの場合、現状ではアスベスト被害として認定される基準が非常に厳しく、多くの被害者が泣き寝入りとなっています。胸膜プラークが認められ肺がんが発症すれば、アスベスト関連疾患の可能性が高いとして救済の道を開くべきです。
 弁護団が明らかにしたアスベスト被害者の今後の発症予測数は、2028年には9万人を超えるとされています。水俣病の推定患者総数は3万人といわれますから、広汎かつ深刻な被害です。
 綿谷 17年前の阪神・淡路大震災時に建物の解体作業などに関わった方からも、アスベストの被害が出てきました。
 船越 潜伏期間を考えると、これから被害が増えていくでしょう。東日本大震災も起こり、今後、長期間にわたる深刻な被害が予想されます。ボランティアなどで被災地に来ていた方は因果関係の証明が困難です。国と企業の責任を明確にすることが、被害者の救済と新たな被害拡大の防止にとっても不可欠です。
 綿谷 アスベストによる疾患は、初発症状はないのでしょうか。
 船越 胸部X線検査で気になる影、胸膜プラークを見つけていただくことです。胸膜プラークがあれば、経年的に調査し、肺がんや中皮腫の早期発見につなげることが大事です。
 そのためにも、われわれは尼崎市に「健康手帳」の発行を求めています。市内に居住歴や職業歴がある方には手帳を発行し、全国どこでも年1回、検査を公費で受けられるようにするのです。財源として、国や関連企業からお金を拠出させる仕組みも必要です。
 綿谷 保健所だけでなく、一般の医療機関でも検診を受けられるようにすることも必要ですね。
控訴審は年明けからさらなる支援を
 綿谷 地裁判決を受け、原告、被告双方が控訴したようですが、今後の展望を教えてください。
 船越 控訴審は、年明けから数回で結審する見込みです。根拠のない距離での線引きを撤回させ、国の責任を認めさせるよう、がんばっていきます。会では高裁での「公平、公正な判決を求める」請願署名も開始しました。
 ただ、尼崎ですら「クボタが補償して済んだんやろ」という声があり、検診受診者も年々減っています。運動を強める必要性を感じています。
 綿谷 最後に、協会への要望をお願いします。
 船越 これまでも多大なご協力をいただいてきましたが、さらに高裁に向けご支援をお願いいたします。
 また、尼崎だけでなく、各地に潜在的な被害者がいる可能性があり、日ごろの診療、特に胸部X線写真を見る際には、アスベストの環境・職業曝露の可能性を意識して見ていただき、疾患の早期発見につなげていただければと思います。気になることがあれば、いつでもお気軽に会にご相談ください。
 綿谷 私も自分の問題として診ていく必要があると感じました。本日はありがとうございました。
 

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