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兵庫県医師会 川島会長インタビュー 日本のTPP参加 皆保険崩壊の危険性知らせよう

2013.05.25

 安倍首相が日本のTPP交渉正式参加を表明した。これまで、国民皆保険制度が壊されるとTPP参加反対を主張してきた兵庫県医師会の川島龍一会長に、協会の池内春樹理事長が話を伺った。

 池内 安倍首相が日本のTPP交渉正式参加を表明しました。その直前に行われた日米首脳会談で安倍首相とオバマ米国大統領は共同声明を発表し、農産品の関税など「聖域」が認められたとしています。また、安倍首相は国民皆保険を守るとオバマ大統領に伝えたとされていますが、一連の動きをどう見ておられますか。
 川島 自民党の中では「環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)参加の即時撤回を求める会」に参加する200人以上の議員たちが、(1)政府が「聖域なき関税撤廃」を前提にする限り、交渉参加に反対する、(2)自由貿易の理念に反する自動車等の工業製品の数値目標は受け入れない、(3)国民皆保険制度を守る、(4)食の安全安心の基準を守る、(5)国の主権を損なうようなISD条項は合意しない、(6)政府調達・金融サービス等は、わが国の特性を踏まえる、という6項目を堅持するよう求める文書を決議しました。これをもって自民党議員は「国益が守られる」などとしていますが、アメリカからみれば、自民党の一部の議連による決議など何の力も持ちません。

 池内 もし、TPPに参加することになれば実際に国民皆保険制度はどうなってしまうのでしょう。
 川島 いくら「守る」といっても種々の規制緩和が進められ、徐々にではあっても必ず国民皆保険制度は崩されます。米国のUSTR(通商代表部)が毎年出している「外国貿易障壁報告書」では、日本の国民皆保険制度について、薬価や医療機器の値段を国が統制することを問題視しています。
 もし、日本がTPPに参加することになれば、アメリカは知的財産権だけはしっかり守ろうと第8条を盾に、特許権の侵害として後発医薬品の販売を否定しますので、ジェネリック医薬品が消えてしまうことになりかねません。しかも新薬の大部分はアメリカ企業で開発されていますので、アメリカ側の「言い値」で薬剤を購入しなければならなくなります。そうなれば、薬価だけが上がる。今の、総額がシーリングされた医療費政策のもとでは、薬価以外の診療報酬の本体部分が減らされてしまうということです。ただでさえ、低い診療報酬のために、十分な人件費が調達できず、医師不足、看護師不足が起こり、医療機関が疲弊しているのに、ますます地域医療は立ち行かなくなってしまいます。
 もうひとつは、TPPに盛り込まれるといわれるISD条項とラチェット条項です。ラチェット条項は一度行った規制緩和を、一方向にしか回転しない歯車(ラチェット)のように元に戻せないという条項で、ISD条項はある国の規制によって外国企業が損失を被る場合、その企業がその規制を定めた国や自治体を相手取って訴訟を起こせるという条項です。こうした条項は、医療分野にさらなる規制緩和をもたらすと思われるだけでなく、制度改善を不可能にしてしまう危険性を持っています。
 例えば、日本が好景気になって、国民皆保険制度をさらに良くするということで、がん患者の窓口負担をゼロに引き下げたとします。すると、アメリカの保険会社からみれば市場が狭くなって、がん保険が売れなくなる。そうなれば、アメリカの保険会社はISD条項を使って日本政府を訴えるでしょう。ISD条項に基づいて提訴されれば、企業が損害を被ったかどうかという事実認定のみが重視されるため、日本政府は訴訟に負けてしまいます。
 つまり、TPPに参加すれば、現状の国民皆保険制度が守られたとしても、これ以上国民皆保険制度を改善することはできなくなってしまうのです。大変大きな問題です。
 池内 日本政府の本音はどうなのでしょうか。
 川島 TPPではアメリカから医療分野も含めて規制緩和が求められることになりますが、日本政府自らも、成長戦略の中で医療を成長分野として位置づけていて、医療を営利産業化するためのさまざまな規制緩和を行おうとしていると思います。

食品の安全性低下の恐れ

 池内 医療分野以外の問題はどうでしょうか。
 川島 さまざまな問題がありますが、国民の健康に係る問題ですと、日本の検疫体制が他の国のレベルに合わせられるということで、安全性が低下してしまう恐れがあります。また、日本産の材料を40%以上使った加工食品は「日本産」と表示できるようになったり、遺伝子組み換え作物の表示義務が撤廃され、遺伝子組み換えにより安価で大量に生産された穀物がどんどん輸入されます。
 そうなれば、日本の消費者はどの食品が安全なのかわからなくなり、結局安い輸入食品を求めるようになって、日本の農業は壊滅してしまいます。当然、日本の食料自給率は下がりますが、それがアメリカの戦略だとみています。つまり、アメリカは石油の供給を支配したり、強力な軍事力を持って、世界に覇権を唱えてきました。しかし、それが難しくなってきた。それで、アメリカは世界の食料を掌握することによって、その地位を維持しようとしています。そのために今、アメリカの企業は世界中の作物の種を集め、遺伝子組み換えにより改良した種子の特許を取得していきます。世界中の人の食物がアメリカの企業に握られてしまうのです。

TPPの実態知らされていない

 池内 それは、大変なことですね。このように大きな問題を抱えているTPP参加ですが、国民の7割が賛成していると報道されています。
 川島 多くの国民がTPP参加に賛成していることについては、マスコミの罪は重いですね。なぜ国民皆保険制度が崩壊するのか、その道筋を報道しなければ、国民がTPPの問題点を充分理解できないのは当然です。本来ならば、マスコミが日本のTPP参加で国民生活にどういった悪影響が出るのかきちんと報道するべきです。しかし、マスコミはそれをしていない。大きな問題だと思います。
 ただ、マスコミをあてにできないのであれば、私たちが広報しなければいけない。兵庫県医師会の市民向けの広報手段は広報誌「パルス」など限られていますし、発行部数も多くありません。そこで、大手紙に意見広告を掲載しようと日医とも相談しています。ただ、単発の企画ではなかなか、多くの国民の目に留まるところまではいかない。やはり地道に市民向けの政策フォーラムなどを開催していく必要があると思います。
 池内 マスコミはどうしても、広告主の意向をそんたくして報道してしまうという弱点があると思います。私たちが国民向けの広報に力を入れなければなりません。私は常々、全国の医師が自分の患者さんにTPPの問題点を訴えれば、1000万人の人に私たちの考えを共有してもらうことができると思っています。1000万人の人がTPP参加に反対すれば大きな力になるでしょう。ぜひ、今後も力を合わせてPRしていきましょう。
 川島 はい。協会と私たちのわが国の医療を守ろうとする理念はまったく同じだと思います。TPP参加を食い止めて国民皆保険制度を守るために、一緒にがんばりましょう。
 池内 本日は、どうもありがとうございました。

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