兵庫県保険医協会

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参議院選挙特集 政策座談会 「構造改革」路線との決別を

2013.07.05

 自民党と公明党が民主党から政権を奪還して半年、安倍政権の実績と今後の政策を問う参議院選挙が7月21日投開票で行われる。協会では、社会保障を取り巻く情勢と争点を中心に座談会を行った。司会は加藤擁一政策部長が務め、池内春樹理事長のほか政策担当の武村義人、川西敏雄、西山裕康各副理事長が参加した。

政権変わっても政策変わらず

 加藤 いよいよ参議院選挙だ。まずは、今回の選挙の位置づけについて議論したい。
 池内 まず、09年に民主党が政権交代できたのは、それまでの小泉構造改革に象徴されるような「市場に任せればすべてうまくいく」という市場万能主義=新自由主義によってもたらされた格差社会に対して「何とかしてほしい」という国民の期待を受けたからだった。しかし、民主党は結局、自民党政治と同じような政策を打ち出した。それが、国民の怒りを買い、再び自公政権が復活したのだと思う。
 西山 民主党は結党以来、新自由主義を掲げる政党だった。それが、小沢一郎氏の選挙戦略で「国民の生活が第一」「コンクリートから人へ」などとリベラルな路線に転換した。しかし、やはり政権与党になったとたんに財界やアメリカからの圧力に抗しきれず、党内の新自由主義勢力が力を増して、それまでの自民党政権と同じ政策をとりだした。
 武村 その後発足した安倍政権だが、これまで行ってきた政策やこれから行おうとしている政策をみてみると、「税と社会保障の一体改革」と称する社会保障改悪と消費税増税、TPP参加、成長戦略など、ほとんど民主党政権が推進していた政策と同じだ。自民党のオリジナルは大胆な金融緩和と憲法改悪ぐらいだ。
 加藤 そういう意味では、この参院選挙も、自民党がダメだから民主党、民主党がダメだから自民党という単純な構図ではなく、どちらを選んでも同じ政策を行う。「格差社会ノー」という国民の願いはこれらの政党ではかなえられないという視点が大切だ。
 川西 マスコミの世論調査で、自民党は最も国民の支持が高いが、その公約は、法人税の引き下げ、原発の再稼働、TPP参加、憲法96条の改定など、本当に国民が願っている政策だとはとても思えない。むしろその反対だ。

医療関係者不在で進む議論

 加藤 では、主要な争点について議論を進めたい。まずは社会保障政策についてはどうか。
 武村 政府が発表した「骨太の方針」には「社会保障支出についても聖域とはせず、見直しに取り組む」とされた。今後、財政再建を理由に社会保障給付が削減されるのは目に見えている。
 西山 「骨太の方針」は経済財政諮問会議から安倍首相に諮問されたものだが、この経済財政諮問会議は東芝と三菱ケミカルホールディングスの社長、三井住友銀行系のシンクタンク日本総研の理事長らが民間議員として名を連ねている。他にも政府は産業競争力会議や規制改革会議という諮問機関を設置しているが、そのどのメンバーにも現場の医師、歯科医師は一人もいない。民間議員の多くは大企業の社長や会長などだ。こうした人たちが、医療や社会保障も含めて日本の方向性を決めようとしている。

社会保障削減と負担増をねらう

 池内 これらの会議では、非常に問題の多い社会保障給付削減や国民負担増が議論されている。たとえば、産業競争力会議では、「がんなら従前通り3割、風邪は7割負担など」「社会保障コストの削減のために、疾病の種類によって自己負担割合を変えることも実施していくべき」という議論や「自己負担の最低限度額を設定すること(少額の治療費については全額負担)」という議論が行われている。すべてがそのまま、実行されるとは思わないが非常に危険な議論だ。また、社会保障改革国民会議でも、現在1割となっている70歳から74歳の窓口負担を2割に引き上げることが議論されている。
 川西 そもそも、日本の窓口負担はヨーロッパと比べても非常に高額だ。ヨーロッパでは窓口負担は無料か、負担があってもごく低い定額か定率負担だ。ドイツはこれまでごく低い定額負担だったが、昨年から無料にした。(図1)
 武村 確かに、日本の高すぎる窓口負担は問題だ。保団連が実施している「開業医の実態・意識基礎調査」でも「この半年間に、患者さんの経済的理由が原因と思われる治療中断があったか」との問いに2010年は38.7%の開業医が「あった」と答えていたが、12年にはその比率が56.0%になっている。格差社会の進行に伴い、具合が悪くても医療にかかれない患者さんが増えている。これは窓口負担が高すぎるためだ。
 西山 すでに政府が実施している社会保障制度改悪の一つに、生活保護制度の改悪がある。
 川西 生活保護制度の改悪だが、三つの問題点を指摘したい。一つ目は、衆議院で可決された生活保護法改悪案が「水際作戦」を合法化するということだ。「水際作戦」とは、申請に来ても受理せず水際で追い返すという意味だ。改悪後はこれまで口頭でも認められていた生活保護申請を、自治体が勝手に「必要な書類が添付されていない」ことを理由に受理しなくても違法ではなくなる。実態は申請権の侵害だ。二つ目の問題点は扶養義務者に対して、扶養の可否を通知することを義務付けている点だ。申請者が親族への体裁を気にして、申請を行わないようにさせるのが狙いだ。三つ目は、生活保護費を3年間で1割削減するということだ。政府は生活保護費の拡大を問題にしているが、そもそも、日本では人口の1.60%しか生活保護を利用していない。これは、先進国でも最低水準で、捕捉率(※)は1割程度にすぎない。(図2)
 武村 さらにこういう生活保護法の明らかな改悪に対して与党の自民党と公明党はもちろん、野党の民主党や維新、みんな、生活も簡単に賛成に回ってしまったことだ。衆議院での審議期間はわずか2日だった。生活保護が受けられなくて亡くなる人がいる中、現場に目を向けず耳も貸さないような議員は不要だ。
※利用資格のある世帯のうち、実際に生活保護を受けている世帯の割合

消費税増税は大企業減税の穴埋め

 加藤 政府が秋に判断するとしている消費税増税はどうか。
 西山 ジョセフ・スティグリッツ米コロンビア大学教授や浜田宏一米イェール大学名誉教授・内閣官房参与など「アベノミクス」に好意的であったり、「アベノミクス」を実際に推進している論者からも、消費税増税については慎重な意見が出され始めている。というのも、やはり経済への悪影響が大きすぎるからだ。日本金融財政研究所の菊池英博先生によれば、消費税を増税した場合の経済シミュレーションをいろいろな機関が行っているが、消費税増税の影響で経済は悪化しないとするものは内閣府のものだけだそうだ。日本経済新聞や日米・世界モデル研究所、電力経済研究所など民間シンクタンクは軒並み経済への悪影響を指摘している。(図3)
 武村 政府はこれまで「社会保障のため」と言って、消費税増税を強行してきたが、実際には消費税財源を利用して社会保障が良くなったためしはない(図4)。消費税が何に使われてきたのかと言えば、それは企業減税だ(図5)。今回の参議院選挙でも自民党は政権公約で、「思い切った投資減税」「法人税の大胆な引き下げ」を掲げている。朝日新聞は「消費税増税で家庭から吸い上げた税金が企業減税による税収減の『穴』を埋めるという構図になりかねない」と批判しているがその通りだ。

TPP参加で皆保険は形骸化


 加藤 安倍首相が参加を表明したTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)についてはどうだろう。
 川西 これまでに医療関係者や市民向けの講演会でTPP参加の危険性を訴え続けてきた。「TPPはアメリカによる日本の合法的植民地化政策だ」というのが非常に分かりやすいと好評だ。国会でTPP参加を批准させないためにも今回の選挙は非常に大切だ。
 西山 そもそも先の総選挙で自民党はTPP参加に反対していたはずだ。それを安倍首相は通商条約に署名する権限もないオバマ大統領との会談で「聖域が確認された」などといい加減なことを言って、参加を決めてしまった。安倍首相は自民党の総裁として非常に無責任で、公約違反といわざるを得ない。昨年の総選挙でTPP参加反対を訴えて当選した自民党議員も首相の参加表明を許してしまったことの罪は重い。
 池内 TPPにはいくつもの問題点があるが、医療分野における問題点のひとつは、TPPを理由にさらにアメリカからの圧力が強くなり、医療の営利産業化が進むことだ。とりわけ私たちが注意しなければいけないのは「命の沙汰もカネ次第」という状況を招く混合診療の全面解禁と株式会社による営利病院の経営だ。元ハーバード大学医学部助教授の李啓充先生は、医療機関の営利化について「競争相手を潰して、地域医療を崩壊させる」「地域の医療を独占して、高額な治療費を患者に請求する」「コストを抑えるために徹底して『合理化』を進め、粗悪な医療を行う」「商業的なノルマ達成のために違法行為を行う」「結果、患者死亡率が上昇する」など多くの問題点を指摘している。
 西山 現実的には日経新聞が報道していたように、中医協などにアメリカの製薬会社の代表が参加し、薬価をさらに高騰させる可能性が高い。
 川西 ISD条項やラチェット規定も大問題だ。ISD条項は、多国籍企業が進出先の国や自治体でそれらの施策によって損害を被った場合に訴えることができる制度だ。韓国では、政府が制定した排ガス規制についてアメリカから「FTA違反だ」と圧力があり、制度を廃止させられたり、郵便保険の加入限度額引き上げもアメリカの指摘で断念させられたりしている。TPPでも、米韓FTAと同様に、関税とは全く関係のない分野でもアメリカの意のままに国内の政策が変更されてしまうという主権制限が行われる可能性が非常に高い。ラチェット条項は、一度行った規制緩和を元に戻すことを禁ずる条項であり、米韓FTAでも大きな問題となっている。

診療報酬引上げで医療関係者の賃上げを

 加藤 さて、ここからは「アベノミクス」の他の二つの矢である「大胆な金融緩和」と「機動的な財政出動」について議論したい。
 武村 まず、政府は2%のインフレターゲットを設定したという。もし、国民の賃金が2%より上昇しない中で物価が2%上昇すれば、国民の生活はさらに苦しくなってしまう。多くの学者がいうように2%のインフレを起こしたいのであれば、2%以上の賃金引き上げを行うべきだ。
 川西 「財政出動」についてだが、政府の計画では10年間で200兆円の公共事業を行うとしている。それだけの財源があるのであれば、社会保障費に回すべきだ。安倍首相は経団連に対し、賃金の引き上げを求めたが、医療関係者の賃金引き上げは政府しか行えない。2%のインフレと賃金の引き上げを行うのであれば、来年の診療報酬改定では4%以上の引き上げを行い、医療関係者の賃金を引き上げるべきだ。すでに医療・福祉の従事者人口は700万人で建設業の500万人よりも多く、数年後には製造業を超えるといわれる。医療・福祉分野で賃金の引き上げを行えば、確実に内需は拡大し、景気回復に寄与するだろう。
 池内 その点では、アベノミクスがやろうとしているのは真逆だ。社会保障を削ってムダな公共事業等を増やし、勤労者の賃上げどころか解雇規制の緩和や「限定正社員」の新設、派遣労働の拡大などを行うのは、景気回復やデフレ脱却と矛盾する政策だ。日本のデフレは、構造改革によって賃金が抑制されてきたためだと多くの学者が指摘している。むしろ、労働者の賃金引き上げと安定的な雇用を拡大することが必要だ。

憲法96条改定で基本的人権制限へ

 加藤 さて、自民党が参院選挙の争点にするとしている憲法改定についてはどうか。
 西山 自民党の進めている社会保障・税の一体改革は、憲法25条で規定されているように国が国民に保障しなければいけなかった社会保障を、「自助」と言って自己責任にしようするものだ。この自民党の狙いは彼らの改憲草案にも如実に反映されている(図6)。
 武村 その通りだ。本来憲法とは国民が国家を縛るものだ。自民党の改憲草案は憲法擁護義務をすべての国民に課す一方で、結社の自由を制限したり、基本的人権の永続性を削除したりしている。まさに、国家が国民の主権や人権を制限する内容で非常に危険だ。
 池内 また、国防軍の保持や集団的自衛権行使の容認なども盛り込まれている。明らかに日米同盟に基づいてアメリカが起こす戦争に日本も加担するための改憲案だ。
 川西 それになんと言っても進め方が姑息だ。自民党は、改憲の発議要件を現行の国会の3分の2から2分の1に緩和し、憲法96条改定を行った後、他の条文を変更しようとするものだ。さすがに、この手法には改憲派の憲法学者である小林節慶応大学教授も「憲法は国民が権力者をしばるための道具。縛られた当事者がやりたいことができないからとルール緩和を言い出すのは本末転倒。憲法の本質を無視した暴挙」と批判している。

米国や大企業のための政治か、もうひとつの道か

 加藤 これまでの、議論をまとめるとやはり現在の政府を支える自民党や公明党はアメリカや日本の多国籍企業に利益をもたらす政治を行っているようだ。では、これに対抗する政治とはどのようなものだろう。
 池内 小泉構造改革以来続く、社会保障改悪、庶民増税、雇用破壊をやめさせ、労働者の賃金と安定した雇用を増やし、社会保障を充実することだろう。
 加藤 しかし、そうした政策を行うには財源が必要だが、日本の財政状況はそれを許さないという批判がある。
 武村 それは、政府やマスコミのごまかしだ。日本の財政赤字の一番の原因は税収の落ち込みだ。法人税は1989年にはGDP比で4.6%あったが、2009年には、わずか1.4%しかない。一方、大企業はこの20年間で80兆円も利益剰余金を積み増している。これは法人税の相次ぐ減税や、正社員をリストラし、非正規雇用を増やして得たものだ。法人税を元に戻してもまったく問題ない。それに、この企業に眠る資金を賃金の引き上げ、正規雇用の拡大に使えば、所得税も社会保険料も増える。
 加藤 では、最後に今回の参院選に向けて強調したいことは。
 池内 自民党や公明党は与党であり、現在のアメリカや日本の多国籍企業に利益をもたらす政治を進めることは明白だろう。注意しなければいけないのは、野党だ。与党を批判したいと思って、とりあえず野党ならというのは危険だ。民主党はそもそも、TPP参加や消費税増税を含む社会保障・税の一体改革を進めようとしていた政党だ。今、自民党や公明党が進めている政治は、民主党も含めた3党合意に基づくものだ。また、みんなの党や日本維新の会も非常に危険だと思う。みんなの党や日本維新の会は自民党以上に新自由主義的な政策を公約に掲げている。元衆議院議長で自民党の大物政治家だった河野洋平氏も、彼らを「第2自民党」と言っている。同じ野党でもよく政策を見極める必要がある。
 西山 医師法では、医師には「国民の健康な生活を確保する」責務があるとされている。そして「健康」とはWHO憲章によれば「社会的にも、すべてが満たされた状態」とされている。国民が社会的にもすべて満たされた状態となるように医師は政治にも働きかけなければいけないのではないか。まずは家族や従業員を誘って投票に行こう。

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