兵庫県保険医協会

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参院選特集 政策座談会 国民の命・暮らし守る政治を

2016.07.05

政策部では参議院選挙に向け、安倍自公政権の4年間の総括と各政党の政策を検討するため、6月22日に政策座談会を行った。参加者は西山裕康理事長、加藤擁一政策部長、武村義人副理事長。司会は川西敏雄副理事長が務めた。

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川西敏雄 副理事長(司会)

診療報酬本体プラス改定のウソ
 川西 まずは安倍自公政権のこの間の社会保障政策について考えてみたい。4月に行われた診療報酬改定についてはどうだろう。
 武村 協会が医科会員医療機関から、診療報酬改定前の2016年2月のレセプトを750枚集め、新点数に置き換えた「2016年度診療報酬改定による影響調査」の結果を見てみると、医療機関によって差はあるものの、本体部分では平均がマイナス0.18%となった。政府がいう本体部分プラス0.49%がまったく実態とかけ離れた数字であることが分かる。
 加藤 歯科でも、「かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所」などの点数が新設され、一見プラス改定のようにみえるが、実際この点数は施設基準などが非常に厳しく、多くの一般的な歯科医療機関では算定が困難だ。とても本体部分がプラス改定とはいえない。
 西山 今回の診療報酬改定では、薬価引き下げ分などを外出しし、マイナス改定幅を小さく見せようとしている。こうした手法が今後も続けば、政府は実際の医療機関への影響を小さくみせつつ、大きく医療費を削減することが可能となってしまう。
 武村 安倍自公政権は一昨年に「医療・介護総合法」を、昨年には「医療保険制度改革関連法」を成立させた。
 「医療・介護総合法」では、2025年の機能別必要病床数を推計した「地域医療構想」の策定が都道府県に義務付けられた。公表された2025年の2次医療圏別の必要病床数は多くの地域で現在より少なく推計されており、医療費のかかる急性期病床を削減させるという政府の意図が明らかに反映されている。今回の診療報酬改定も急性期病床の削減、入院から在宅への誘導を促す内容となっている。
 加藤 「医療・介護総合法」や「医療保険制度改革関連法」は安倍自公政権下で制定された法律だが、その中身は、介護分野では特別養護老人ホームへの入居者を要介護3以上に限ったり、一定所得以上の人の介護利用料をこれまでの1割から2割へ増やしたり、「要支援者」向けの介護サービスを介護保険から外し市町村の事業にするというひどい内容だった。医療分野でも、入院患者の食事代自己負担額の引き上げや紹介状なし大病院受診に定額負担を導入するなど、なるべく病院に患者をかからせない、入院させないというものだった。結局政府の狙いは、介護や医療など社会保障費を抑制することだ。
 西山 安倍自公政権は今年度から3年間、社会保障費の伸びを毎年5千億円までに抑えるとしており、毎年3千億円から5千億円の社会保障費抑制が行われる予定だ。今年度の社会保障費抑制額は5千億円にも上っている。これは、小泉政権下で毎年社会保障費を2200億円抑制して「医療崩壊」を招いた時よりもひどい社会保障費の削減だ。
消費税以外の財源を
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西山裕康 理事長

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武村義人 副理事長

 川西 「社会保障の財源がない」という声が、政府やマスコミからよく聞かれる。さらに、安倍首相が消費税増税を延期したことにより、医療や社会保障の充実ができないと当然視する新聞の主張や解説がある。
 西山 安倍首相は、消費税再増税延期の発表記者会見で「社会保障については...引き上げた場合と同じことを全て行うことはできないということはご理解をいただきたいと思います」と述べている。しかし、消費税を5%から8%へ増税した際に、社会保障の充実に使ったとされているのは5千億円であり、税収増の10分の1でしかなかった。
 そもそも、消費税増税による財源を社会保障に充てるというが、税収に「色」はついておらず、これまで社会保障に使われてきた税収を消費税収に置き換えただけであるとも言える。実際、導入以来の15年度までの累計消費税収は304兆円に上るが、その期間の法人税減収は263兆円に上る。結果的に企業へのたび重なる減税や研究開発減税をはじめとする租税特別措置の拡大などで減った法人税収を、消費税増税で「穴埋め」し続けてきただけだと言うこともできる。
 にもかかわらず、安倍首相だけでなく、マスコミ各社は「社会保障財源充実のために、消費税増税を予定通り実施するのが筋だ(6月2日・朝日)」「社会保障の財源が失われてしまう(6月2日・毎日)」などと、政府の考え方を鵜呑みにした世論誘導を行っている。これらの主張の背景には「消費税収=社会保障財源」、つまり消費税は「社会保障目的税だ」という考え方がある。この考え方が、マスコミを通して医療従事者、国民になし崩し的に刷り込まれ続ければ、社会保障給付は消費税収の範囲内で行うべきとなってしまう。
 武村 私たちは社会保障の財源は、引き下げられてきた法人税率を元に戻すことや、使用者負担による医療保険料の引き上げ、所得税の累進性の強化によって生みだすことができると、これまで主張してきた(表1)。
 川西 この間、パナマ文書の報道もあり、大企業と超高所得者が応分の税負担をしていないことが、広く知られるようになっているが。
 武村 その通り。そもそも、三井住友フィナンシャルグループやソフトバンクは2014年にそれぞれ300万円、500万円しか法人税を負担しておらず、これは経常利益の0.002%程度でしかないという。大企業優遇税制が大きな問題だ。
 その上、タックス・ヘイブンを使ってさらに税逃れをしているのはひどすぎる。しかも、パナマ文書に名前が挙がった個人や企業について、各国は検察や税務当局が調査に乗り出しているが、日本では「違法ではない」として調査すらしようとしていない。こんな対応を取っている国は、ロシアや中国だけだ。
 国民には消費税増税や医療・介護の負担増を押し付けているのに、大企業や富裕層の税逃れはおとがめなしというのは許せない。参議院選挙では、法人税や所得税などの他の税収構造の見直しにより、「社会保障の財源は、消費税増税に頼らず確保する」という協会の主張を広める、いい機会ととらえたい。
社会保障の充実で経済成長も
 西山 これまで協会は、社会保障の充実と非正規雇用の規制、正規雇用の拡大により国民の懐を温めることによって、GDPの6割を占める内需を喚起すれば、持続可能な経済成長ができ、税収増、保険料増につながる。そして、増えた税収や保険料収入でさらに社会保障を充実させることができる。こうした好循環を訴えてきた。
 武村 以前の厚生労働白書は「社会保障が不安定となれば、...必要以上に貯蓄をするために...経済に悪影響が及ぼされる」「(社会保障は)国民に、困った時には支援を受けられるという安心をもたらすことによって、個人消費の動向を左右する消費者マインドを過度に萎縮させないという経済安定の機能があるといえる」などときちんと社会保障の経済的な機能にも言及している。中長期的に見れば、大企業にとっても悪い話ではない。
 川西 しかし、安倍自公政権は選挙の公約には載せていないが、さらなる医療・社会保障制度改悪を計画している(表2)。ちなみに原案は諮問会議などで決定済みで、選挙が終了次第、国会に提出されるだろう。
 加藤 やはり、選挙後にこれらの改悪が行われることを国民に強く訴えて、医療・社会保障分野を参院選挙の一大争点にしなければいけない。 
アベノミクスの問題点
 川西 こうした中、自民党は「経済政策」を選挙の一大争点として打ち出し、公約の中で、アベノミクスの成果として「就業者数110万人増加」「有効求人倍率24年ぶりの高水準」「給与3年連続で2%水準の賃上げ」「企業収益過去最高」と宣伝しているが。
 加藤 多くの人は「アベノミクスの成果」なるものを実感していないのが現実だ。企業収益が過去最高というのは事実だろうが、それが国民生活を豊かにしていないことが問題だ。大企業が儲かれば、それが労働者や中小企業にも波及するという「トリクルダウン」は起きていない。雇用が増えたといっても、安倍自公政権前の12年10〜12月期に比べ15年の同期までに増えたのは賃金の低い非正規雇用の172万人で、正規雇用は23万人も減っている。給与も増えたというが、労働者の平均賃金は、1997年のピーク時から年間約70万円も減っているし、実質賃金も4年連続で前年を下回っている。
 武村 「アベノミクス」では、金融緩和で円安誘導を行い、輸出大企業を儲けさせるとともに、国民の年金を株式市場に流して株価を吊り上げただけだ。しかし、それも限界を迎えている。英国のEU離脱問題で株価が下がってきた。安倍自公政権は日本の景気が上向かないことを、海外の経済状況のせいにしているが、決してそれだけではない。戦後初めて個人消費が2年連続で減少しており、国内景気が上向く気配はない。そもそも、政府が消費税増税を延期しなければ、さらに景気が悪化すると考えているとの判断は、「アベノミクス」の失敗を認めていることになる。2017年の10%への引き上げ時には「必ずやその経済状況を作り出すことができる」と「決意している」とのことだが、とても信頼はできない。
原発再稼働の問題点
 川西 少し話は変わるが、安倍自公政権が原発の再稼働を進めているのも問題だ。しかも、「運転期間は原則40年」という政府自身が決めたルールも守らず、高浜原発1・2号機など老朽原発まで動かそうとしており、非常に危険だ。
 加藤 その中で、3月に大津地裁が、住民らの人格権が侵害される恐れが強いとして、稼働中の高浜原発3・4号機の運転差し止めを命じた。やはり、すべての原発をすみやかに廃炉にすべきだ。
海外で戦争できる国をめざすのか
 川西 安倍自公政権が強行採決した安全保障関連法や改憲も、大きな争点となりそうだ。安倍首相は、選挙演説などでは改憲に触れず争点隠しに躍起だが、「この選挙の結果を受けて、どの条文を変えていくか、あるいはどの条文の中身をどう考えていくか議論を進めたい」などとも発言しており、選挙の結果によっては一気に改憲機運が高まる可能性もある。
 武村 昨年の安保関連法の強行採決は歴史的な過ちだと思う。私たちは、医師・歯科医師として、国民の命と健康を危険にさらす戦争に強く反対してきたが、この法律は、簡単にいえばアメリカが世界中で起こす戦争に日本も堂々と参加できるようにするものだ。こうした本質を隠したまま、法律を制定したことは許せない。そもそも日本弁護士連合会や元最高裁判所長官、歴代内閣法制局長官、憲法学者など、日本を代表する法律の専門家が憲法違反だといい、多くの国民が反対している法律を成立させることなど、本来ならできないことだ。
 西山 安倍自公政権は、北朝鮮や中国の危機をあおり、安保関連法を成立させたが、この法律は日本の自衛と全く関係のないものだ。これまでも北朝鮮のミサイルに対しては「破壊措置命令」などを出し、万が一日本にミサイルが落ちてくれば迎撃すると政府は言ってきた。中国の軍用機による領空侵犯には航空自衛隊のスクランブルで対応してきた。これは現在の憲法も認めた自衛の範囲で、これまでの法律でもできたことだ。最近、北朝鮮が再び中距離弾道弾の打ち上げをおこなったが、これは安全保障関連法が成立しても何の抑止力にもなっていないことを示すものだ。そもそも武力による抑止は、双方にエスカレートする口実を与え、避けるべきだ。
 結局、安保関連法は自国が攻撃を受けていなくても、同盟国が攻撃を受ければ、反撃することができるというものだ。第2次世界大戦後に起こった戦争はすべてこの「集団的自衛権」を理由に起こっている。これまでも日本は、アメリカが行う戦争にさまざまな支援をおこなってきたが、この法律は文字通り一緒に戦争を行うもので、アメリカとともに世界の各地域で恨みを買うことになる。そうなれば、日本がテロの標的になるかもしれないし、自衛隊が他国の国民を殺すかもしれないし、殺されるかもしれない。その瞬間から、平和国家として築き上げてきた日本の国際的な信頼と地位を投げ捨てることになるだろう。
 加藤 安倍自公政権の憲法軽視は目にあまるものがある。憲法は主権者たる国民が権力の暴走を許さないために、権力を縛ることを目的とした法律だ。しかし安倍首相は「憲法学者の7割が...自衛隊の存在が違憲の恐れがあると判断している。違憲の考え方を持つ状況をなくすべき、という考え方もある」などと述べている。こうした人たちが、権力を握り、自分たちを縛るものから国民を縛るものへと、憲法を変質させようとしている。本当に恐ろしいことだ。
 自民党の憲法草案をみると「時代錯誤」という言葉がふさわしい。緊急事態条項を制定し、時の権力者の都合で、憲法を停止状態におけるようにすることや「公の秩序」という言葉を使って権力者の都合で人権を制限できるようにすることが盛り込まれている。こんな憲法改悪を許せば、とても民主主義国家とは言えなくなってしまう。何としても自民や公明、おおさか維新などの改憲勢力に参議院でも3分の2の議席を得させてはいけない。
 武村 平和や安全保障に関しては、沖縄の問題を忘れてはいけない。政府は沖縄の米軍基地について「抑止力」を理由に必要などと説明するが、5月に起きた元米海兵隊員による女性暴行殺人事件などを見ると、抑止力どころか、基地によって沖縄県民の命が危険にさらされ犠牲となっている。政府は沖縄県民の声を聞き、日米地位協定を抜本的に改定し、辺野古での新基地建設を中止すべきだ。
広がる野党共闘
 川西 安保関連法の議論については、法案反対の国民的な運動がおこった。これまでの団体や組織の動員によるものではなく、学生や子どもを持つ母親たちが自分の意思でネットワークをつくり、全国に広がった。協会もSEALDs KANSAI(※)のメンバーと懇談を行ったが、彼らの考えに触れ、非常に心強く感じた。彼らは安保関連法を廃止するために、参議院選挙で共闘することを野党に呼びかけた。1人区のすべてで野党共闘が成立したが、こうした動きについてはどうだろう。
 加藤 安保関連法廃止の一点で始まった野党共闘だが、各野党が市民連合と政策協定を結んだ。その中身は「公正で持続可能な社会と経済をつくるための機会の保障、辺野古新基地建設の中止、原発に依存しない社会の実現に向けた地域分散型エネルギーの推進」など、主要な政策について一致点が広がっている。これは、市民の声が野党の政策に反映したものだ。この間、協会が発信してきた社会保障政策にも通じるところがあり、個人的には非常に期待している。
 川西 これまでの議論で明らかになったことは、今回の参議院選挙は日本国憲法を軽んじる、または踏みにじる、つまりは国民を大切にしない安倍自公政権を許すのか、それともやめさせるのかということが最も大きな争点だろうということだ。安倍自公政権は、国内では法人税の減税や労働分野での規制緩和を推し進め、大企業の利益を第一に考えた政治をしている。また、海外に目を向ければ、安保関連法や辺野古の新基地建設、TPPなど、アメリカのいいなりの政治を国民に押し付けている。これを国民の命と健康、くらしを守る政治に転換する必要があるのではないか。
 本日はどうもありがとう。


※SEALDs KANSAI(シールズ関西):「自由で民主的な日本を守るための関西圏の学生による緊急アクション」。安保関連法廃止などを求めて活動を行っている
表1 医療の公的支出を増やす基本的な考え方と三つの提案
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表2 参議院選挙後に政府が計画する医療・社会保障改悪案
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