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インタビュー「ひょうごの医療」 口唇口蓋裂の患者・家族とサマーキャンプ20年 チーム医療で子の成長サポート

2016.11.05

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澤田 正樹先生
【さわだ まさき】1950年生。74年京都大学卒、県立尼崎病院形成外科医長、耳鼻咽喉科医長、レノックスヒル病院(ニューヨーク市)留学、京都大学形成外科学教室講師、神戸市立中央市民病院形成外科部長を経て、2002年開業

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山本 一郎先生
【やまもと いちろう】1948年生。72年大阪歯科大学卒、76年英国グラスゴー大学歯学部矯正歯科学科大学院修了、77年開業。高知県立療育福祉センター歯科非常勤医師、香川大学医学部形成外科非常勤講師などを務める

 唇や口蓋が癒合しないまま生まれてくる口唇口蓋裂。形成外科医の澤田正樹先生(灘区・さわだクリニック)と歯科医の山本一郎先生(西宮市・山本歯科医院 矯正歯科クリニック)は、その治療を行うとともに、患者と家族、医療スタッフが交流するサマーキャンプを続け、今年で20年となる。辻一城副理事長が、患者・家族と医療者の立場を超えた交流の取り組みについて話を伺った。 
 

形成外科医と歯科医運命的な出会い

  サマーキャンプが20回目を迎えられたということですが、概要を教えてください。
 山本 患者・家族・医療スタッフがお互いに学びあい、語らい、交流する機会にしようと97年から毎年夏に、1泊2日で行っているものです。
 澤田 今年は、六甲山にある神戸市立自然の家で7月末に行い、自然の中で、レクリエーションやカヌーなどをしました。
  患者さんにとっても喜んでもらえるような取り組みですね。お二人はいつ口唇口蓋裂の治療に携わるようになったのですか。
 澤田 私は大学卒業後、大学の耳鼻科に入局しました。そこで指導を受けたのが、口唇口蓋裂の分野で国際的に有名な一色信彦先生でした。一色先生のもと77年に新設された形成外科に移り、口唇口蓋裂や交通外傷による変形などを診ることになりました。
 山本 私は大学を卒業して解剖学の助手をした後、イギリスのグラスゴー大学大学院に行き、そこで、マクニール先生という方が開発した、口蓋裂の子の哺乳を助ける哺乳床(現在のホッツ床)の存在を知ったことが始まりでした。
  お二人が知り合ったきっかけというのは。
 澤田 私たちを結びつけたキーパーソンが、言語聴覚士の川野通夫先生(京都教育大学名誉教授)です。もともと高知県で障害児教育に携わっていた教員で、研究のため京大の音声科学研究所に来られており、話すことがうまくできない口唇口蓋裂の子の言葉のリハビリテーションをされていて、知り合いました。
 川野先生が83年、私が県立尼崎病院で形成外科科長をしていた時に、山本先生を連れて現れたんです。
 山本 そうでしたね。私は帰国後に、「発音装置を作れないか」という依頼を受けたのが、川野先生と知り合ったきっかけでした。
 澤田 そして、川野先生が指導する言語聴覚士をめざす大学院生たちが臨床を経験する場として、山本先生、川野先生と、口唇口蓋裂の患者のカンファレンスを始めたのです。山本先生は歯を、私は口から鼻を、川野先生は言葉を診て、患者さんの抱える悩みや状況を総合的に判断し、手術か矯正治療かなど、行うべき治療をディスカッションしました。
  まさにチーム医療ですね。

サマーキャンプの立ち上げ
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聞き手 辻 一城副理事長

  口唇口蓋裂の治療には、言語聴覚士が重要なのですか。
 山本 患者を持つ母親はいろいろな不安や疑問を抱えています。言語聴覚士は女性が多く、母親が日常的に悩みを相談するのは、彼女らなんです。
 澤田 深刻な悩みを抱えていても、男性の私たちにはなかなか話してくれません。そんなとき、川野先生が「泊りがけで行こう!」と。皆でお酒でも飲みながらざっくばらんに話そうと提案されました。高知の人でお酒好きなのです(笑)。
  それでキャンプが始まったと。
 山本 1回目は澤田先生が会場の手配をしてくれ、有馬の温泉会館で、30〜40人で、ハイキングしカレーを作りました。参加された方が大変喜ばれまして。
 澤田 最初は私が診ていた患者と家族だけだったのですが少しずつ広がり、今年は140人ほどが参加されました。今は近畿地方だけでなく、広島から来られる方もいます。医師の方も、知り合いの形成外科医に声をかけ、神戸中央市民病院や県立尼崎医療センター、大阪の淀川キリスト教病院などから、5・6人に参加してもらっています。
  患者さんは何歳くらいの方が参加されているのですか。
 山本 20年も続けているので成人になられた方も多く、赤ちゃんから30歳を超えた青年までいます。
 澤田 大人になっても、さまざまな悩みがあり、鼻の形を治す、傷跡をもう少し綺麗にしたいなど、治療途中の人もいます。また、治療が終わった元患者さんたちが、運営側スタッフとして参加され、自分の体験談などを話してくれます。
 山本 小さい子を持つ母親は、その子と同じ症状を持った人が大人になった姿を実際に見て、将来が展望できるようになるようです。
  子どもの将来が見えると心強いですね。
 山本 そうなのです。子ども同士・親同士、医師や歯科医師、言語聴覚士とさまざまな関係が生まれます。大病院の偉い先生が、ヨーヨー釣りや輪投げを子どもたちとして、距離がぐっと縮まります。
 澤田 そうやって、患者さんが抱える不安の解消につながれば、意味があると思いますね。最初の10年くらいは、皆さんから「どんな治療をするのか」と質問攻めで、舌圧子と懐中電灯を持参し、のどの状態を見て相談に乗っていました。今は、元患者さんたちがスタッフに加わってくれるようになり、ほとんど出番がなくなっていますね。
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キャンプでのカヌー体験。さまざまな取り組みを通じ交流する

新生児期から始まる医科歯科連携

 山本 それから、もう一つの柱としてのカンファレンスは年3回、当院で続け、多職種で治療方針を検討しています。
  どんな治療を行うのですか。
 澤田 一般的に口唇裂の場合は3カ月、口蓋裂は1歳頃、裂を縫う手術を行います。術前治療として、患者の子が生まれてすぐに山本先生に診てもらいます。
 山本 口唇口蓋裂の子どもたちは、食べることや話すことという口の機能にさまざまな困難を抱えています。まず大切なのは哺乳です。口蓋に隙間があり鼻と口がつながっている場合は、これを塞ぐため上あごにホッツ床(哺乳床)をつけると乳がよく飲めるようになりますし、不自然な位置にあるあごの位置を矯正し、裂の幅を狭めるという効果もあります。口唇裂の場合は、テープを貼ることで哺乳できるようになり、裂の広がりをおさえることもできます。哺乳瓶も大切です。子どもが能動的に飲めるものであるべきです。
  ただ口にミルクを流し込むのではなく、子どもの力で飲むということが大事なのですね。
 澤田 そうです。哺乳時に舌の力で乳頭を押すということが、言葉の発達に大きく影響すると分かってきています。
 山本 食べることだけでなく、話すという機能をどう担保するかについても、哺乳から始まっているのです。澤田先生に手術していただいた後、発音や言葉の状態を継続的に見ていき、どんな訓練が必要か、もう一度手術が必要かなどを検討します。
  言語聴覚士はいつから治療に関わるのですか。
 山本 言語の訓練を行うのは3〜4歳ですが、乳児期のカウンセリングから関わっていきます。
 澤田 突然見知らぬ大人が言葉の訓練をしようとしてもできませんので、その前から子どもを抱っこしたりして慣れてもらうことからですね。また、口蓋裂の子は、普通の子より滲出性中耳炎になりやすく、滲出性中耳炎は聞こえが悪くなり、言葉の発達度合いも遅くなります。ですから、言葉を話し出す前の1歳前くらいに、言語聴覚士が聞こえの状態を観察します。
  言語聴覚士が、一番子どもとも親とも密に関わるのですね。
 山本 その通りです。口唇口蓋裂の治療の幹になるのは言語聴覚士なのです。

20年の節目を迎えて

  キャンプは今後も続けていかれるのですか。
 澤田 当初医療スタッフ中心だったキャンプの運営は、患者さんの親御さんたちがしてくれるようになりました。ただ、この方たちの子も大きくなり、われわれも年をとりましたので、20年の節目でやめようという話になったんです。
  えっ! 今年で終わってしまうのですか。
 山本 そのつもりだったのですが...キャンプの最終日に、「私たちも助けてもらったから、世話役をやります」と名乗り出た方たちがいましてね。
 澤田 そういう患者さんの声を聞くと、行かないわけには行きません。
  先生方の後継者も育っているのですか。
 澤田 キャンプに何年も参加してくれている形成外科医も歯科医もいますので、彼らが今後続けてくれたらと思っています。
 山本 若い先生方も、診察室では作れない関わりから学ばれていることがあるのではと期待しています。
  ぜひ継続していただきたいです。本日はありがとうございました。
 



〈インタビューを終えて〉
 運命的な出会いから20年にわたる取り組みは、医科歯科連携のひとつの理想型だと思います。私の問いかけに対し、おふたりが数秒間見つめ合い、おひとりが話し始めるという場面が何度かありました。先生方の深い信頼関係を感じました。(辻)

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