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政策研究会講演録「共謀罪がもたらす『壊憲』」 市民同士が監視し合う社会に

2017.05.25

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兵庫県弁護士会・共謀罪プロジェクトチーム座長 
吉田維一弁護士 
【よしだ ただいち】兵庫県弁護士会所属。神戸合同法律事務所。兵庫県弁護士会人権擁護委員会副委員長、労働と生活委員会副委員長。日本弁護士連合会共謀罪法案対策本部委員。自由法曹団兵庫県支部事務局次長。借上復興住宅弁護団事務局長

 協会が4月8日、吉田維一弁護士を講師に開催した、政策研究会「共謀罪がもたらす『壊憲』−私たちへの影響」の講演録を掲載する。

共謀罪はテロ対策なのか
 共謀罪について、多くの人が「私は悪いことをしないから、関係ない」と思っているのではないだろうか。しかし本当にそうなのかということを話したい。
 この法案は「テロ等準備罪法案」と呼ばれている。2003年から3回にわたり時の政府が成立を目指したが、すべて廃案になっている。兵庫県弁護士会は共謀罪反対の運動に力を入れており、過去すべての法案に反対をしている。
 自民党や政府がこの法案が必要だという理由の一番が、国際組織犯罪防止条約の批准のためというものだ。
 しかし、日本政府はこの条約の協議の中で、「準備行為を罰することは、日本の刑法原則と一致しない」と言い、こうした議論をうけて、この条約の34条には、自国の国内法の基本原則に則ってこの条約を運用すればよいということが謳われた。つまり共謀罪はこの条約の批准に必ずしも必要ではない。
 そもそもこの条約の目的は、国境をまたぐ犯罪組織、つまり、マフィアなどの取り締まりで、テロ対策は含まれていない。
 そこで、出てきたのが「オリンピックに向けて、テロ対策を万全にする」という理由だ。しかし、そのために共謀罪を制定する必要があるのだろうか。
 世界にはテロ対策関連の条約は13本あると言われているが、日本はその全てを締結し、それに合わせて処罰規定も整えている。テロ対策では日本は世界の優等生だ。さらにすでに犯罪の準備段階で処罰する規定もある。陰謀罪や予備罪、一部には共謀罪もすでに整備されている。
 また、日本はアメリカと違い、銃刀法で拳銃や刀を所持するだけで、ピッキング防止法ではバールやドライバーを持っているだけで、取り締まることができる。
 犯罪予防のためにこれでもかというほどの法律を整備しているのだ。
要件を厳格化?
 この「テロ等準備罪法案」についてNHKなどのメディアで、これまでの法案より厳格化されたというキャンペーンが盛んにおこなわれている。これも検証が必要だろう。
 共謀罪法案の問題点は、「団体」が「共謀をする」と処罰されるということだ。しかもその「団体」とは、総会や定款もいらない2人以上の集団を指すと言われ、「共謀」とは何かというと、さまざまな議論が国会で行われたが、政府は最後には「目くばせ」、つまり暗黙の了解でも共謀だと言い出した。
 これが、今回の法案でどう厳格化されたのか。
 まず団体について「2人以上の集団」という説明から「組織的犯罪集団」とした、だから一般市民は大丈夫だと言う。しかし、犯罪自体を目的とする組織などない。例えば、暴力団はお金儲けなどの目的のため、テロリストは政治的主張の実現のため、犯罪を犯す。
 だから、あらかじめ、集団を特定することはできない。「2人以上の集団」が「集団として犯罪行為を行うという目的において共同した」と捜査機関が判断した段階で、誰でも「組織的犯罪集団」になり得る。人が、いつ、どこで、誰と、どんな話をするのかは誰も知ることはできない。「犯罪行為を行うという目的において共同した」段階を見極めるため、常に個人の行動を監視しなければならなくなる。誰を監視するかは、捜査機関に任される。結局、どこが犯罪集団に変わるか分からないから、どこを監視しようとかまわないということになりかねない。
 また政府は「準備行為」という概念を作り、「目くばせ」ではなく「準備行為」をしなければ取り締まらないから、市民は大丈夫だという。「準備行為」とは何なのか。政府は、犯罪のための資金調達や犯行現場の下見などと説明している。つまり、お金をATMでおろしたり、移動したりということも取り締まりうるということだ。
 現在の刑法で定められている犯罪の流れを考えてみよう。殺人を例にとると、人を殺める行為をしてその人が死亡したら「既遂」。人を殺める行為を行ったが、その人が死亡しない場合は「未遂」となる。殺人を目的として凶器を買ったり、毒薬を製造した場合には、殺人予備罪となる。
 共謀罪はその前の段階、つまり、凶器を買うためにお金をおろすという行為を取り締まるものだとされる。
 しかし、こうしたお金をおろすなどという行為は外形的には普通の人の日常の行為と区別がつかないため、あらゆる人のあらゆる行為を常に監視する必要が出てくる。現場の警察が犯罪行為に関連すると思えば、捜査対象になるということだ。
発達する国民監視ツール
 「本当にそんな監視ができるのか」と思われるかもしれないが、現在は通信技術が非常に発達し、国民を監視するツールも発達している。現在でも盗聴法により、電話の傍受システムが運用されている。これまで警察の電話盗聴には電話会社職員の立ち会いが必要だったが、法律の改悪により、不要となった。
 メールやインターネットの閲覧記録、SNSなどは、現在でも令状があれば捜査は可能だ。また、警察がテロ対策だと言って、通信業者が任意に協力することがありうる。アメリカでは、実際、通信業者が協力していた。また、アメリカでは、テロ対策のために「PRISM」という監視プログラムを運用していたといわれている。グーグルやフェイスブックなど、主要な通信業者のユーザーのやり取りを政府が監視するというものだ。こうした監視システムは、テロ対策を理由に導入され、結局SNSを利用する全ての人が監視されてしまっている。こうした問題は、日本では今年1月に公開された映画「スノーデン」でも描かれていた。
 さらに、誰でも監視カメラや防犯カメラに毎日撮影されている。最近では集音マイク付き、顔認証や人の体温や振動などから精神状態まで把握するカメラも開発されている。
 携帯電話や車のGPSを使えば、位置の把握が常にできる。そしてその人がメールやSNSを利用すれば、誰とどんな関係なのかも分かる。また、民間のクレジットカードの情報や資産情報がマイナンバーにひも付けられつつあるが、それを把握すれば何を買ったのか、どのようなサービスを受けたのかが分かる。
 こうした技術の進歩により昔のように張り込みなどしなくても、多くの市民を監視することが可能になっている。
 しかし、これらの監視ツール以上に怖いのは実は人間だ。
 共謀罪には、「自首減免規定」がある。これは共謀罪に問われそうなことを見聞きしたら、その人と距離を置くことでは罪は免れず、積極的に警察に報告しないといけないという制度だ。
 2016年5月に改正刑事訴訟法が成立し、日本でも司法取引が可能となった。これが共謀罪に結びつくと非常に危険だ。共謀罪に問われた人は、罪を免れようとして、共謀したとされた相手について、検察が言うとおりの供述をしてしまうことが考えられる。後で良心が芽生えて、「それは嘘でした」といえば偽証罪になってしまうから、それもできなくなる。
 そこまで行かなくとも、誰でも自分の生活を守るために、捜査機関に「共謀した」と思われないように、自分は善良だとアピールしようとし、密告が横行し、市民同士が監視する社会になってしまう。
 これが共謀罪が平成の治安維持法だといわれる所以だが、治安維持法より共謀罪が恐ろしいのは、現在では、戦前と違い多くの人が、録音や録画をできるスマートフォンを持っているということだ。
憲法の根幹をゆるがす共謀罪
 憲法があるのだから、そこまではできないはずだという人もいるだろう。確かに日本国憲法第13条ではプライバシー権、自分の情報を自分でコントロールできるという権利が謳われていて、これにより通信業者の通信の秘密を守る義務などが導き出されている。
 しかし、そうした歯止めが利かない恐れがある。捜査機関の捜査が適法なものかどうかのチェックが働かないからだ。それは特定秘密保護法によるところが大きい。それまで政府は外務省や防衛省の情報は秘匿できたが、警察の捜査情報は秘匿できなかった。しかし、特定秘密保護法により警察の情報も特定秘密に指定できるようになった。そうなるとテロ対策を名目にした捜査が適法かどうか誰もチェックできなくなる。
 共謀罪法案は憲法の根本に関わってくる。憲法の本質は第13条にあるように個人の尊厳を守ることにある。簡単に言えば「みんな違っていい」ということだ。
 そのためには平和でないといけないということで、第9条に平和的生存権が規定されている。今、憲法9条を守ろうという運動が盛んだが、そのためにはさまざまな価値観を持つ人が世代を超えてつながっていくことが大切だ。
 しかし、共謀罪ができれば、自分が疑われないよう、率先して密告する社会になる。そんな社会でつながりができるだろうか。憲法の大原則である「みんな違っていい」という考え方を精神的に根こそぎ刈り取ってしまう。
 「過去に目を閉ざす者は結局のところ現在にも盲目となります。非人間的な行為を心に刻もうとしない者は、またそうした危険に陥りやすいのです」というドイツのワイツゼッカー元大統領の有名な言葉がある。
 共謀罪法案は成立しないとどうなるのか分からないという意見があるが、これはあまりにも歴史を軽視しているのではないか。治安維持法も戦前の帝国議会で大反対されながら成立した際、一般市民は対象にならないと言われていたが、捜査や監視の対象をある程度推測することはできた。他方、共謀罪は一般市民を対象にしないと言いながら、捜査や監視の対象が推測すらできない。さらに、当時と異なり監視技術も発達しており、少人数が多人数を監視することができつつある。そういう意味では共謀罪は治安維持法よりも危険な「市民監視」法だ。
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