兵庫県保険医協会

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県知事選挙特集 県政座談会 福祉医療充実の県政へ転換を

2017.06.05

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図 井戸県政で対象者は10分の1以下に削減

 6月15日告示・7月2日投開票で行われる兵庫県知事選挙にあたって、協会では、医療・福祉を中心とした県政の課題と争点について座談会を行った。司会は加藤擁一政策部長(副理事長)が務め、西山裕康理事長、武村義人副理事長、幸田雄策政策部員が参加した。

国の社会保障削減で県民負担増つづく
 加藤 いよいよ県知事選挙だ。主要な争点について議論を行いたい。
 武村 兵庫県の福祉医療を語るにあたり、まず国政における社会保障改悪に触れないわけにはいかない。
 西山 財務省をはじめ政府は、財政悪化の原因だとして社会保障を切り捨て、国の責任を放棄し、個人に責任を押し付けている。財務省からは、今後も75歳以上の高齢者の窓口負担を2割へ倍増させるなど、さらなる社会保障切り捨て計画が出されている。
 幸田 財政悪化の本当の原因は公共事業なのは明らかだ。ゼネコンはもうかるかもしれないが、国民の懐は暖まらない。コンクリートではなく、医療や介護といった社会保障の充実は人への投資なので、経済効果が大きい。個人消費も喚起されるから、めぐりめぐって大企業も利益を上げる。日本のGDPが上向けば、消費税収だけでなく所得税収、法人税収も増えるので、財政も健全化し、増税の必要性もなくなるのに、財務省は経済のことを分かっているのか疑問に感じる。
 武村 他にも全国の都道府県に地域医療構想を策定させて、病床削減を一律に進めようとしている。この地域医療構想で計算されている各都道府県の必要病床数は、現在の入院患者数をもとにしているが、現在でも、病床不足や患者の経済的事情、入院日数の短縮化から、早期退院を促されたり、入院できない人がたくさんいる。
 幸田 重症患者を無理矢理退院させることは、家族に大きな負担を強いる。同様に介護が必要な人の受け皿がなく、やむなく自宅で介護をしなければならない現状も問題だ。介護離職の問題は深刻で、仕事を辞めることによる経済への悪影響は計り知れない。安倍首相も介護離職ゼロと言うのであれば、介護施設の充実と介護報酬の抜本的引き上げをするべきだ。
 加藤 それなのに安倍政権は、これまで介護報酬を引き下げてきた。介護職の賃金引き下げが続くと、働き手はさらに減少し、政府が目指す「介護離職ゼロ」の目標は遠くにかすむ。今でさえ介護施設や介護職の不足は深刻なのに、高齢化がさらに進む将来、介護施設からの追い出しも加速してしまわないかが心配だ。
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西山 裕康理事長

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司会
加藤 擁一副理事長

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武村 義人副理事長

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幸田 雄策政策部員

マル老対象を10分の1以下に
 加藤 国によって社会保障切り捨てが進んでいるからこそ、県の役割はより大きくなっている。
 武村 しかし4期16年の井戸県政を振り返ると、とても社会保障を拡充してきたとは言えない。老人医療費助成事業(マル老)は井戸知事就任以来、対象者を20万人から2万人へと10分の1に、人口に対するカバー率を70%からわずか5%へと大きく削減してきた。今年の県議会では「最終2カ年行革プラン」として、マル老を廃止して、代わりに高齢期移行助成事業を創設することが決められた。今までは65歳以上69歳以下の低所得者を対象にしていたが、この所得制限の区分Ⅱに要介護度2以上という要件を新たに加えた。これによって対象者は2万人から1万2千人へと4割もカットされる見通しだ(図)。
 全日本民主医療機関連合会(民医連)の調査では、2016年の1年間に経済的な理由から国民健康保険料が払えず「無保険」状態だったなどで受診が遅れて死亡した人が、全国の民医連加盟医療機関で把握しているだけで58人に上っている。低所得者向けの医療費助成制度の縮小で、新たな受診抑制が起こり、治療が手遅れになってしまう人が生み出されるのではと心配される。
 西山 医療費助成制度について、所得制限に加え、要介護度などといった新たな制限で対象を絞ることは大きな問題だ。
 加藤 兵庫県は、高齢者が元気になったからマル老を廃止したと言っているが、間違いだ。マル老により、高齢者がいつでも医療機関を受診できる体制を整えていたから、高齢者の健康寿命が延びているのだ。マル老を削減すると、健康状態が悪くなることも考えられる。歯も50歳、60歳からしっかりケアしないと、手遅れになってしまう。お金の心配なく医療にかかれることはとても大切なことだ。これからは高齢者が地域社会の中心となる。高齢者に温かい政治が求められる。
 武村 兵庫県は全国47都道府県中7位の財政規模を持つ。決してお金がないわけではない。県行革に名を借りた県職員数の削減、社会保障切り捨てには反対だ。
子育て支援にも逆行の井戸県政
 西山 こども医療費の助成制度拡充についても、井戸県政は後ろ向きだ。兵庫県下では35市町が中学3年まで無料と大きく広がっているが、県は助成額を16年間で4億円減らしている。無料化を自治体任せにしている上、所得制限を強化して対象者を絞っているからだ。県は、中学卒業まで助成を行っているのは全国で15都県だけで、兵庫県は先進的と説明するが、助成の中身を見ると、たとえば入院時の自己負担は、5都県が無料、有料の10県でも兵庫以外はすべて少額の定額負担。兵庫県は唯一定率の2割負担であり、他の都県に比べて乏しい内容だ(表)。
 加藤 地域医療についても井戸県政は、県立尼崎病院と塚口病院を統合させるなど、病床数削減ありきの病院再編計画を各地で推し進めてきた。地域医療切り捨て政策には協会も反対の声を引き続き強く上げていく。
 武村 県立こども病院のポートアイランドへの移転についても忘れてはいけない。移転したこども病院の隣に今年、県立粒子線医療センターの附属施設として神戸陽子線センターが開設される予定だが、この施設が行う治療は保険収載されていないし、神戸医療産業都市の一環として、こども病院と一体で外国からがん患者を受け入れる医療ツーリズムの一翼を担う可能性が高いと見ている。神戸市は海外から患者を受け入れるために通訳ができるコンダクターを整備するなど、医療ツーリズムを進めようと躍起になっているが、県立病院は医療ツーリズムのためではなく、真に県民のための病院としての役割を果たすべきだ。
 幸田 70億円以上を投じた淡路島の「交流の翼港」は巨大なつり掘りと言われている。公共事業を優先する井戸県政の施策は安倍首相そっくりだ。このような経済政策ではとても県民生活が向上するとは思えない。やはり協会が主張しているように、医療、福祉、教育の充実に向け、兵庫県が率先して役割を果たすべきだ。
地域医療切り捨て
病床削減に反対
 加藤 兵庫県は昨年、地域医療構想を策定した。この中身を見ていきたい。
 西山 県の地域医療構想では、2025年までに病床数を600床あまり削減し、回復期病床への機能転換も県の権限で進めるとしている。県が地域の実情を軽視した病床削減を行わないように監視していかなければならない。
 武村 地域医療構想では地域の高度急性期病床の不足が明らかとなったが、ただでさえ地方は医師不足が深刻で、高度な医療は提供できないのが現状だ。
 西山 高齢者医療確保法では「他の都道府県と異なる診療報酬を定めることができる」と記されている。これを利用した医療費削減も危惧されるが、逆に県民医療の充実につながるような県独自の診療報酬の引き上げも考えてほしい。政府は在宅医療の占める割合を今後増やそうとしているが、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)の整備では医療や介護の受け皿としてはあまりにも貧弱だ。特養の整備を進めるべきだ。
 武村 公立日高医療センターの無床化計画が明らかになり、住民の反対運動で病床が維持されることになったが、地域ごとに必要な病床を整備すべきだ。家族が通えない場所に入院させてはいけない。
 加藤 病状が急変した際にバックアップの役割を果たす病床が地域にないと、医師は安心して在宅医療ができない。国は、病床削減により強引な在宅誘導を進めようとしているが、在宅医療の充実には逆に病床の整備が必要不可欠だ。
 西山 高すぎる国保料を取り巻く問題も深刻だ。滞納により短期の保険証しか交付されず、慢性疾患の治療が受けられない患者さんも存在している。協会が毎年県下全市町に行っている国保に関するアンケートの結果によると、県下の国保料滞納世帯数は20万世帯、保険証の未交付数は4万6千世帯にも上っている。差し押さえも5800世帯に対して行われている。
 加藤 これまで各市町が行っていた国保の運営が来年、都道府県に移管され、県が国保財政に責任を持つようになる。新知事には、県の予算を使って高すぎる国保料を引き下げていただきたい。
津川氏で県政転換を
 西山 そのためにも県政を転換させる必要がある。協会は津川知久氏と政策協定を結んで支持推薦を決定した。津川氏の福祉医療政策を見ていきたい。
 武村 こども医療費については、県として中学卒業まで窓口負担を無料化し、各自治体と協力して高校卒業まで全県で無料化を実現するとしている。これまでは市町間で差があったが、実現できれば大きな前進となる。
 加藤 歯科部会で3月に取り組んだ学校歯科治療調査で、高校生になると、歯科治療が必要な生徒の受診率が大きく下がることが明らかになった。中学3年生まで医療費無料の市町が増える中、高校生になったら受診にお金がかかることがその理由にあるかもしれない。高校卒業まで医療費無料化の対象を広げる運動が大切になってくる。
 西山 津川氏は公立病院については、統廃合一辺倒ではなく、地域医療が確保できるように整備するとしている。また現在各圏域での受け入れ体制が整備されていない小児救急についても整備するとしている。
 武村 協会が昨年2月に行った地域医療を考える懇談会では、北摂・丹波地域の小児救急医療について報告がなされた。丹波圏域では夜間は小児の受け入れができないことも多く、対応できない時には神戸こども初期急病センターや阪神北広域こども急病センター等へ受診しているとの厳しい現状が報告された。
 幸田 そんな遠くの病院へ受診しなければならない状況は、あってはならない。小児の救急体制の整備はまさに喫緊の課題だ。
 加藤 国保についても、津川氏は保険料を引き下げ、保険証は取り上げないと明言している。
 幸田 社会保障拡充は経済の視点からみても良いことだ。井戸知事とは予算の使い道がまるで違う。
 武村 先ほど話題になったように、井戸県政は行革プランで社会保障削減を進める一方、大規模公共事業を推し進めている。
 西山 福祉医療予算は183億円から101億円へ大きく引き下げられてきたが、兵庫県の予算は一般会計と特別会計などを合わせて総額で3兆3000億円にも上る。つまり福祉医療予算は県予算全体のわずか0.3%に過ぎない。とても財源不足とは言えず、使う方向の問題である。
 武村 兵庫県は国の悪政という荒波から県民を守る防波堤にならなければならない。津川氏にはぜひ県政を転換してほしい。
 加藤 学校、病院、交通は重要な社会インフラだ。津川氏はこれらがなくなると地域が崩壊していくと言っており、本当にその通りだと思う。採算が取れないからと言って、学校の合併、病院の統合、鉄道やバスの廃止を進めていくと地域の荒廃はさらに進んでしまう。自治体はコミュニティバスなどいろんな取り組みによりなんとか頑張っている。財政力のある兵庫県が、自治体にさらなる支援をするべきだ。
 さて、今回の知事選には津川氏、井戸現知事の他に、勝谷誠彦氏、中川暢三氏が立候補を表明している。
 幸田 勝谷氏は、今まで全く政策を発信していない。知名度に頼った選挙戦を考えているのだろうか。もともと保守のコラムニストであり、出てくる政策も今の自民党と変わらないのではないか。
 武村 元加西市長の中川氏も立候補するというが、規制緩和して何でも民間に任せれば良いという考えのようだ。弱者を守る規制を取り払おうとする人に県政は任せられない。
兵庫県から平和の発信を
 加藤 津川候補は、「非核神戸方式」を県内全域に広げるなど、平和問題についても発信している。
 西山 井戸知事は、米軍の戦略に協力し、兵庫県が管理する姫路港に米軍艦を入港させている。 
 加藤 核兵器を積んでいるかもしれない艦船を兵庫県に入港させるなどもってのほかだ。「非核神戸方式」を兵庫県全体に広げるためにも、津川氏には頑張ってもらいたい。
 武村 兵庫県には米軍戦闘機の訓練ルート(ブラウンルート)が存在しており、低空飛行する米軍機が多数目撃されている。このルートが、公立豊岡病院を起点とするドクターヘリの運用範囲と重なっていることも心配だ。
 西山 知事は住民の安全を守るために、危険な低空飛行訓練などに反対していかなければならない。
 加藤 原発問題についても、井戸氏は関西広域連合の連合長として関西電力に頭が上がらないのか、原発ゼロに後ろ向きだ。津川候補は原発反対と再生可能エネルギーの促進を掲げており、評価できる。
 西山 震災アスベストの問題も忘れてはいけない。阪神・淡路大震災から20年以上が経過し、震災時に倒壊した建物から飛散したアスベストに曝露した人が、肺がんや中皮腫を発症する時期になっている。将来にも責任を持つ人が知事になって、健康調査などの手を打たなければ、うやむやなまま大変な事態になってしまう。
給料上がってこそくらし豊かに
 加藤 経済振興政策についてはどうだろうか。
 幸田 安倍首相は働き方改革と言いながら月100時間以上の残業を認めるなど、長時間労働を進めようとしている一方で、最低賃金は依然として低水準だ。庶民の景気感に直結する中小企業への支援には予算をほとんど使っていないから、兵庫県でも景気が上向いた実感がない。
 武村 井戸知事は、尼崎へのパナソニックの工場誘致のために200億円もの補助金を用意したが、結局数年で撤退されてしまった。大企業のために予算を使っても意味がないことの証明だ。県民の懐を温めるには直接的な支援が求められる。
 加藤 津川氏は兵庫県の最低賃金を今すぐ1000円に、将来は1500円への引き上げを目指すとしている。最低賃金1500円というのは年収にすると300万円程度であり、決して無理な計画ではない。合わせて人件費の負担が大きくなる中小企業へは県が支援するとしている。
 幸田 給料が上がってこそ、県民の暮らしは豊かになる。無駄な公共事業のバラマキより、よほど効果があるのではないか。
7月2日投票所へ足を運ぼう
 加藤 最後に投票に行くことの大切さについてみんなで考えたい。
 西山 投票率を見ると、参議院選挙とのダブル選だった時を除くと、大体3割程度で、3人に2人は選挙に行かないという状況だ。選挙に行っても何も変わらないと思っているのかもしれないが、3分の2を占める彼らが選挙に行ってこそ、政治は大きく変えることができる。
 武村 そもそも選挙の存在を知らない県民も多いのではないか。18歳選挙権となった今回、若い人たちの投票行動に期待したい。各候補もSNSでの発信を強めるなど、積極的に発信していってほしい。
 加藤 国のいいなりではなく、県民の立場に立ち、願いを実現しようとする県政でなければならない。津川氏が選挙で得票を伸ばし、行革反対、福祉医療の充実こそ県民の民意だとはっきりと示さなければならない。
 幸田 この座談会を通して、津川氏でないと県政が変わらないとの思いがますます大きくなった。県政を転換させるために、7月2日は必ず投票に行こう。

表 こども医療費助成で中学卒業まで対象としている都県の助成内容(入院) 
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