兵庫県保険医協会

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【パブリックコメント】兵庫県健康づくり推進実施計画(第2次)(案)に対する意見(全文)

2018.03.15

 兵庫県保険医協会は、県が実施した兵庫県健康づくり推進実施計画(第2次)(案)」へのパブリックコメントとして、以下の意見を送付した。全文を掲載する。

はじめに

 「WHO健康の社会的決定要因に関する委員会最終報告書」では「貧困者の健康不良、各国内に生じている社会格差に対応した健康格差、そして国家間での顕著な健康の不公平は、世界的な、あるいは国内における、権力、資金、物資およびサービスの不平等な分配と、それらの結果として生じる直接的に眼に見える人々の生活環境(すなわち保健医療、学校、教育へのアクセス、労働と休養、家庭、コミュニティ、町や市)と豊かな人生を送れるチャンスの不公平とによって生じている。健康を阻害するような経験の不公平な分配は、どう考えても自然現象とは呼べず、粗末な社会政策や事業、不公平な経済秩序と、劣悪な政治の有害な複合作用の結果であると言える。健康の社会的決定要因は、(社会)構造的な決定要因と日常生活環境の両方から成り立ち、それらは国家間および国内の健康の不公平の大半の原因となっている」とある。より具体的には「1 日常生活状況を改善する 初めから公平性を保障する、健康な場所でこそ人々は健康になる、公正な雇用と適切な労働、ライフコースを通じた社会保護 、国民皆健康保険」「2 権力、資金、リソースの不公平な分配に対処する すべての政策、システム、事業において健康の公平性を考慮する、公正な資金供給 、ジェンダーの公平、政治的エンパワメント- 包摂と発言権、良好なグローバル・ガバナンス」「3 問題を測定して理解し、対策の影響を評価する」の必要性を説いている。
 また、健康と不平等に関する疫学研究の専門家である前世界医師会長サー・マイケル・マーモット氏は「全ての社会に格差は存在しているため、健康における格差もある程度存在するわけですが、その度合いは国によって違ってきます。その格差を是正する方法というのは、どれだけ国の予算を社会保障に当てられるかにあるということは既に明らかになっています。私は、そこへの介入の方法には、全ての子どもに最善の人生のスタートをしてもらう、全ての人に生涯を通じての学習と教育の場を提供、全ての入に公平な雇用と良質な仕事を提供、全ての人に健康な生活水準を確保、健康で持続可能な地域社会の構築と発展、疾病予防の重視と強化の6つがあると考えています。」と述べている。
 これらから明らかになるのは、「兵庫県健康づくり推進実施計画(第2次)(案)」の1頁「第1章 基本的な考え方 1 計画策定の趣旨」にあるように「個人が健康であるために」必要なことは、「まず県民一人ひとりが主体的に心身の健康づくりに取組むこと」ではなく、資金等を社会保障によって平等に分配するとともに、公平な雇用を提供し、健康な生活水準を確保することであるといえる。この点を、本実施計画でも重視し、取り組みの中心とすべきである。

 1頁「第1章 基本的な考え方 1 計画策定の趣旨」において、「個人が健康であるためには、まず県民一人ひとりが主体的に心身の健康づくりに取組むことが大切です。そしてその個人の取組を社会全体で支えるための仕組みを充実する必要があります。」とされているが、一人ひとりが「主体的に心身の健康づくりに取り組むこと」ができる環境を整える必要がある。そうした環境として最も大きなものといわれるのが、経済的環境である。「ホワイトホール研究は、英国の国家公務員の階層と健康に関する一連の分析で、男性40 ~64 歳の事務補助職の死亡率が管理職の4倍であること等を見い出して、研究を重ねた結果、社会的地位が下層の者ほど、健康状態が悪いことがわかり、…健康にも社会格差の影響によって格差が生じていることが指摘された。」(石尾勝2017年9月「日医総研ワーキングペーパー 貧困・社会格差と健康格差への政策的考察」)とあるように、所得階層や職業階層に着目して、そうした格差をなくすことこそ、個人の健康にとってきわめて重要であるとの認識から本計画をまとめるべきである。

 6頁「第2章 本県の健康づくりをめぐる現状 3 平均寿命・健康寿命 (2) 2次保健医療圏域別」において、「2次保健医療圏域別の健康寿命は、男性では最大で2.24 年(阪神北81.03 淡路78.79)、女性で最大で1.11 年(阪神北84.60 西播磨83.49)の差が生じています。」とされ、「[表7]県内の2次保健医療圏域別の健康寿命(H27 年)」が示されている。また、13頁の「第3章 基本目標 2.健康寿命に関する指標」において「項目」として、「健康寿命の延伸」「県内の2次保健医療圏域間の健康寿命の差の縮小」が掲げられている。この点、総務省による「市町村税課税状況等の調(2016年)」を利用し、所得と健康寿命の相関を調べると男性において緩やかな相関が見られる。それぞれの圏域で貧困をなくし、県民所得を底上げすることを盛り込むべきである。

 16頁「第4章 分野別取組 1 生活習慣病予防等の健康づくり (1) 主体的な健康づくりに向けた健康意識の向上 (特定健診・特定保健指導)」において「(1) 特定健診受診率は年々上昇していますが、第1次計画の目標は達成しておらず、また、全国平均より低い状況が続いています。」とされているが、「健康診断の未受診者割合は、低所得世帯ほど高くなる傾向がある。」(石尾勝2017年9月「日医総研ワーキングペーパー 貧困・社会格差と健康格差への政策的考察」)との指摘もあるので、特定健診への補助を拡大すべきである。

 18頁「第4章 分野別取組 1 生活習慣病予防等の健康づくり (1) 主体的な健康づくりに向けた健康意識の向上 (がん対策)」において、「【表9】がん検診の未受診理由」が示されているが、表中「費用がかかる」との声に応えて、がん検診を希望する県民への助成を充実させるべきである。

 25頁「第4章 分野別取組 1 生活習慣病予防等の健康づくり (2) 食生活の改善 現状・課題・第1次計画の評価 (適正体重)」において「(2) 男女とも肥満の割合が増えており、特に男性は40・50 歳代で3割を超えています。」とされているが、「厚生労働省「平成26年 国民健康・栄養調査」(2015年12月)に、興味深い結果が示されている。すなわち、「20歳以上について生活習慣と所得の関係を集計・分析した結果を見ると、男女ともに世帯所得の違いによって肥満者割合や健診の未受診者割合が異なっている。その差は特に男性において大きく、世帯所得200万円未満では600万円以上と比べて肥満者割合が1.5倍…に達している。」(神田 慶司2016「大和総研 コラム 所得格差と健康増進」)との指摘もある。肥満解消のために貧困の解消を政策としてうちだすべきである。

 27頁「第4章 分野別取組 1 生活習慣病予防等の健康づくり (2) 食生活の改善 現状・課題・第1次計画の評価 県の取組方針・主な推進施策」において「(「ひょうご“食の健康”運動」の展開) 「『おいしいごはんを食べよう』『もっと大豆を食べよう』『減塩しよう』を3本の柱に、主食・主菜・副菜のそろったバランスのよい日本型食生活を推進します。」とされているが、日本食はカルシウムの不足や塩分過多という問題点もあるので、併せて指摘すべきである。

 41頁「第4章 分野別取組 1 生活習慣病予防等の健康づくり (5) 次世代への健康づくり支援 県の取組方針・主な推進施策」において「(普及啓発の推進等)妊産婦の健康管理や乳幼児期の健全な生活習慣(食、遊び、運動、睡眠、事故防止等)、疾病予防(予防接種等)に関する知識の普及啓発や、看護師が助言や受診医療機関の案内などを行う小児救急医療電話相談の実施など小児救急患者の家族等の不安軽減の取組を進めます。」とあるが、同時に地域に周産期母子医療センターをはじめとする、小児医療機関の整備を行うべきである。

 54頁「第4章 分野別取組 2 歯及び口腔の健康づくり (1) 総合的な推進」において「県の取組方針・主な推進施策」として「妊婦歯科健診の受診率向上、幼児期のむし歯予防(フッ化物の利用等)、学校歯科健診のフォローアップの強化、成人期以降の定期的歯科健診・保健指導の実施の促進を通じてライフステージ別の歯・口腔の健康づくりを進めます」とあるが、健診率を向上させる具体的施策が明確でない。無料健診制度を全年齢に広げ、保健所等に常勤の歯科医師と歯科衛生士を配置するなどで、全住民が定期健診しやすい条件づくりが必要ではないか。

 56頁「第4章 分野別取組 2 歯及び口腔の健康づくり (2) 総合的な推進」において「県の取組方針・主な推進施策」として「幼稚園、保育所、認定こども園、小・中学校、高校における歯科検診結果の集計、傾向分析を行います。」とあるが、検診結果だけでなく、治療勧告を受けた子どもの受診実態とともに、口腔崩壊にいたるまでの子どもの健康状況を把握・分析し対策をはかることが必要である。「学校歯科医等と連携により、歯科検診後の歯科受診、治療体制を整備強化します。」とあるが具体的でない。社会福祉士など多職種との連携もはかり、確実な受診に繋げるように対策を学校まかせにせず行政も主体的に責任をもつべきである。また、親のネグレクトや口腔に対する意識の低さが要因の子どもの未受診・口腔崩壊を防ぐためにも、学校においても歯科保健指導の場を十分に確保することも重視すべきである。さらに、食育基本法に基づいた食育推進基本計画でも、食生活を支える口腔機能の維持等についての指導の推進もあげられているので、歯科医師と歯科衛生士が学校などを通じ、幅広く食べることによる健康づくり、口腔の健康づくりへ積極的に参加できる施策が必要である。

 67頁「3 こころの健康づくり (1) ライフステージに対応した取組 (ア) 総合的な推進 現状・課題・第1次計画の評価」において「(こころの健康)(1) 家庭や地域社会における関係の希薄化、社会・経済構造の変化等に伴い、こころの病が増加しています。また、健康の保持増進を図り、生活の質を高めるためには、栄養や運動面だけでなく、十分な睡眠による心身の休養を日常生活に適切に取り入れた生活習慣を確立することが重要です。」とされているが、「職業性ストレス等のメンタルヘルスへの対応については、わが国の労働環境、雇用構造が急速に変化している中、長時間労働等とともに大きな課題となりつつある。端的に言えば、身体だけでなく心の健康に好ましくない労働環境が問題であり、政策としては、不安定な雇用状況、低い報酬、低い裁量権等の問題を改善していく必要性が指摘されている。」(石尾勝2017年9月「日医総研ワーキングペーパー 貧困・社会格差と健康格差への政策的考察」)とあるように、労働環境の改善に県として積極的に取り組むべきである。

 90頁「第4章 分野別取組 4 健康危機事案への対応 (1) 災害時における健康確保対策 現状・課題・第1次計画の評価」において、「(1) 東日本大震災では、医療機関の被災や交通途絶による慢性疾患患者の医療中断…」とされている。県下全域にバランスよく災害拠点病院を整備すべきである。

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