兵庫県保険医協会

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特別インタビュー 全国自治体病院協議会 小熊新会長に聞く 自治体病院と開業医の連携で地域医療を守ろう

2018.10.15

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全国自治体病院協議会 会長
小熊  豊先生

【おぐま ゆたか】1950年生まれ。75年北海道大学卒業。同大学医学部附属病院第一内科、国立札幌病院北海道がんセンター勤務、富山医科薬科大学臨床検査医学講座助教授、帯広厚生病院第4内科主任医長などを経て、91年砂川市立病院内科部長、96年同病院院長、2014年〜18年砂川市病院事業管理者。2018年6月、全国自治体病院協議会会長に就任

 地域住民の健康と命の最後の砦として役割を果たす全国で950近くの自治体病院。低診療報酬の下、民間医療機関では提供できないへき地医療を担うなど、その役割はますます増している。他方、国による医師養成数の削減や新専門医制度による専攻医の都市部集中、地域医療構想による病床の削減などさまざまな医療制度改革が自治体病院にも影響を与えている。今年6月に新たに全国自治体病院協議会の会長に就任した小熊豊先生に、大きく変化しつつある医療制度の下での自治体病院の新たな役割や課題について西山裕康理事長と住江憲勇保団連会長がインタビューした。

北海道胆振東部地震の被害
 西山 今回はご多忙の中、インタビューを受けていただきありがとうございます。
 住江 はじめに、先生の故郷である北海道で起こりました今回の胆振東部地震のお見舞いを申し上げます。私も9月10日から2日間現地を訪問させていただきました。北海道医会の会員では、4件の医療機関が被災しました。現地は地形が大きく変わってしまったようで、大変な揺れだったというのが分かりました。
 小熊 ありがとうございます。実は今回の地震で、私の実家が倒壊してしまいました。私の両親は安平町で石造りの建物で診療所を経営していました。すでに両親はそこに住んでおらず、現在は地元行政の要請を受けて建物をNPO法人の事務所として使っていたため、当日は無人だったのが幸いでした。DMATの待機命令が出ましたので、テレビで情報収集をしていたのですが、ちょうど倒壊した実家がニュースの映像で流れて驚きました。
 住江 先生が名誉院長を務められている砂川市立病院など道内の医療機関の状況はどうでしたか。
 小熊 幸い北海道で機能不全に陥った病院はありませんでした。しかし、停電が大変だったようです。
 住江 まだまだ、復興には大変な苦労がいると思います。私たちでできることがありましたらおっしゃってください。
 小熊 ありがとうございます。
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聞き手 西山裕康理事長

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聞き手 全国保険医団体連合会 住江憲勇会長

深刻な医師不足医学部定員の維持を
 西山 さて、まずは現在、政府で議論が進められている医師の働き方改革についてご意見をください。
 小熊 はい。私たち全国自治体病院協議会では全国を七つのブロックに分けており、そのブロックの会議でも共通議題として医師の働き方改革を議論しています。そこで各病院から出てくるのは、都会でも地方でも医師が不足しているという声です。もちろん偏在もあるでしょうが、やはり絶対数が不足していると見るべきです。
 厚生労働省は医師の需給について3通りの試算を行って、医師は近いうちに充足するとしています。しかし、この試算は、医師が長時間の時間外労働をするという前提で行われています(図)。そもそも、こうした長時間労働を規制する「働き方改革」であるはずなのに、なぜそのような試算をするのか。私たちは厚労省にも強く指摘しています。その代わりに医師を3交代制にした場合に必要となる医師数を試算すべきだと提案しています。
 その上で、私たちはせめて医師の養成数は現状を維持すべきだと要請しています。1982年に医学部定員抑制が閣議決定され、2008年の定員増まで26年にわたり医師養成数は抑制されてきました。働き盛りの30歳代後半から50歳代までの医師が少ないのです。その影響が今、非常に強く出ています。それ以外の年代は、十分とはいえませんがそれなりの人数がいますので、引き続き現状の医師養成数を維持してほしいと要請しています。
 地域偏在については、各大学の地域枠出身者が増えているので、その先生方をうまく地域に配置してほしいと思っています。
 西山 先生は医学部定員枠の維持とおっしゃいましたが、私たちは医学部定員の拡大も検討するべきだと考えています。
 小熊 確かに、医学部定員を増やしていただければ、医師が充足するまでの時間は短縮されます。しかし、現状、高校生のうち120人に1人が医学部に入っています。また、将来労働人口の20%が医療・介護分野で働くとの試算もあります。人口減の中、果たして医療関係者ばかり増やしてよいのかどうかという観点もあります。
 西山 なるほど。政府は医師の負担軽減のためにタスクシフティングやAIの利用を推進するとしています。
 小熊 補助員は役に立っています。しかし、看護師は増えていません。タスクシフティングと言ってもそう簡単にはいかないでしょう。一方でAIには画像診断などの分野で期待しています。
政策医療を担う自治体病院の厳しい経営
 西山 医師の増員を行うにしてもタスクシフティングを進めるにしても、財政的な裏付けが必要になると思います。やはり政府は国民医療費を増やすべきではないでしょうか。
 小熊 その通りです。自治体病院も含め、病院の運営は本来は診療報酬によって裏付けられるべきです。赤字が問題とされる自治体病院ですが、実は一時期多くの病院が黒字に転換したことがありました。小泉政権下で構造改革が行われた時、診療報酬マイナス改定が続き赤字病院が増えましたが、その後はわずかながら診療報酬が引き上げられ、多くの自治体病院が黒字転換したのです。しかし、安倍政権の発足以来、再び赤字の病院が増えています。現状のような低診療報酬では、自治体病院の経営は非常に困難です。
 民間病院と異なり自治体病院には財政的保障があると言われますが、自治体病院には政策医療等を行うという役割が与えられており、そうした医療は診療報酬では採算が合いません。そのために、自治体からの繰入金が、全国の自治体病院で合計約7000億円あるのです。このうち、総務省が「へき地医療の確保」、「周産期医療」などと決めた基準に基づく基準内繰入金が約6000億円です。これは法律に定められたものなので問題はありません。その他の基準外の繰入金が約1000億円あり、この部分が問題視されるのです。しかし、この基準外の繰入金も使途を精査すれば基準内に該当するものが多いことが分かっています。それに、基準外と判断される交付金も、へき地医療を担う病院が都市部の医師に勤務してもらうために手当てする交通費や、医師や看護師の待遇改善に要する給与の補てんなどに充てています。やはり自治体病院は、へき地医療など民間病院ではなかなか取り組めない採算性の低い医療を受け持っていますので、一定の補助が必要なのは明らかです。
 西山 その通りですね。しかし、総務省は自治体病院の赤字を解消すべく、自治体や病院に改革を強く迫っていますね。
 小熊 私たち自治体病院には、「へき地医療」「政策医療・不採算医療」「高度・先進医療」「研修の実施や医師派遣の拠点」という四つの役割があります。総務省公立病院改革ガイドラインでは「自らが果たすべき役割を見直し、改めて明確化する」よう求められています。つまり、民間医療機関で提供できる医療は民間に任せて、自治体病院は四つの役割だけを担えばよいということです。しかし、四つの役割だけを行うことは経営的には無理があります。やはり地域に自治体病院があること自体が、地域の存続や活性化にとって大切な要素になっていると思います。国にも自治体にも、そうした地域全体を考えて自治体病院の改革を進めるべきだと常に述べています。
地域に頼りにされる自治体病院に
 住江 日医などは地域医療構想で病床削減が行われるのではないかと懸念する民間病院に対して、「公立病院の病床が減るだけだから、心配いらない」などと説明しています。
 西山 今のところ自治体病院に対する病床削減の強い要請等はあるのでしょうか。
 小熊 実際の議論を行っている各地の地域医療構想調整会議では、自治体から病床削減を行えというような要請はないようです。ただ、総務省が公立病院に、改革プランを作成させるにあたって、病床稼働率が3年間70%以下だった病棟については病床を削減させるというルールを導入したので、今後病院によってはダウンサイジングを余儀なくされるでしょう。
 しかし、病床稼働率が低く、ベッドが余っているからといって、減らせばいいのかというとそうでもありません。多くの自治体病院は災害時の拠点となりますので、そうした事態に備えてベッドに余裕を持つ必要があります。また、小児科など診療科によっては入院患者数が減っていますが、だからといって完全になくすわけにはいきません。
 住江 多くの地域で民間の診療所や病院もやはり自治体病院に頼っています。自治体病院の病床が減るというのは、民間病院や診療所にとっても大変なことです。
 小熊 そうですね。私は常々、自治体病院の先生方に「地域に自治体病院があってよかった」と言われるようになってほしいと言っています。地域の患者さんはもちろん、診療所や病院の先生からも頼りにされる自治体病院をつくっていきたいですね。一方で、自治体病院は、もともと住民の要請を受け設立されてきましたが、今では自治体のあり方も大きく変わっています。少ない医師で100床以下の病院をいくつも設置するよりも、集約して一定規模の病院を地域の中心に設置し、住民が納得できる範囲でその周辺に住んでもらうといういわゆるコンパクトシティーの考え方も必要だと思います。
 西山 どのような規模と機能なら、住民が納得できるのかという目安が大切ですね。
 小熊 そうですね。そうしたことも含めて、地域の医療だけでなく、介護のあり方や地域自体のあり方なども地域医療構想調整会議で、地域の医療関係者と自治体担当者が議論できるようになりました。これは良いことだと思っています。 
消費税損税問題の解決は最終的には課税がベスト
 西山 さて、消費税増税が来年に迫っています。自治体病院は規模が大きなところも多く、いわゆる控除対象外消費税が大きく経営を圧迫していると思います。その解消に向けて先日、三師会と四病協が「新たな枠組み」を発表しました。
 小熊 実は本日の常務理事会でもその話がでました。やはり控除対象外消費税は税制の問題ですので、本来は税制の中で解決すべきだと思っています。そういう意味では消費税導入時から医療については非課税ではなく課税にしておけばよかったと思っています。これまでにも是正する機会はあったのでしょうが、今となってはそれもできません。ですから、病院団体の会合では「やはり課税が原則だ」という意見は根強いのですが、今回の診療報酬による補てんと非課税還付方式を組み合わせた「新たな仕組み」も次善の策ということで仕方ないのかなと思っています。
 議論の中で診療所は益税になっていて、課税にするとこれまでの診療報酬での補てん分が引きはがされて減収になるといわれていますが、本当にそうなのかなと思います。診療所の先生だって控除対象外消費税が負担になるから、本当は必要な設備投資を控えて何とか経営しているというのが実情ではないでしょうか。そういう意味では益税の医療機関などほとんどなく、やはり課税による解決の方がよいと思います。
新専門医制度への期待
 西山 今年から新専門医制度が始まりました。地域や標榜科の偏在是正に役立ってほしいという期待の一方、逆に研修医が大都市の大病院に集中し、医師の偏在が加速するとも危惧されています。
 小熊 現状は、専攻医が都市部に集中しており、是正してほしいと思います。厚生労働省は、ようやく先の国会で医師法・医療法を改正し、各都道府県で医師少数区域や医師多数区域を指定し是正を行い、地域ごとに各科の必要医師数を算出すると言っています。それに基づいて、各科の医師を養成しないことには、この問題の解決はできないでしょう。専門医機構に厚労省が物申すのは大賛成です。歓迎しています。
 住江 若い医師が地方で働く意思を持っていることは、さまざまなアンケートなどから明らかになっています。
 小熊 その通りです。2〜3年という期間限定ならへき地で勤務するという若い医師は多いのです。後任や指導医が確保できれば、へき地に行くことは難しくありません。
 西山 新専門医制度が、医師のへき地勤務のきっかけになったり、総合診療科を選択した若い医師が数年間、へき地で勤務をするなどという仕組みを備えるものになるとよいと思います。
 小熊 砂川市立病院も総合診療科の連携施設になっていますが、そのプログラムを利用して研修に来ている先生は今のところいません。現在いる5人の研修医は自治医大を卒業した先生や大学から研修に来ている先生です。ぜひ、新専門医制度のもとでも連携プログラムを利用して多くの研修医に来てほしいと思っています。
開業医との連携で地域医療支えたい
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自治体病院の役割や課題について語り合った

 西山 最後に地域の開業医に自治体病院が期待していることを教えてください。
 小熊 この間、自治体病院でも多くの病院が労働基準監督署の立ち入り調査を受けています。そこで、医師の時間外労働を減らしなさいと言われれば、救急を減らすことはできませんから、外来を減らすしかありません。ですから、外来はなるべく地域の診療所の先生に診ていただいて、自治体病院の外来に直接お越しいただく患者さんを減らす必要があると思っています。ただ、へき地では開業医の先生も少なくそれほど無理も言えません。
 たとえば、砂川市立病院の医療圏は2次医療圏を超えるくらいの広さがあります。周辺の開業医の先生と連携しながら地域医療を提供していますが、砂川市内には開業医の先生方の診療所は5軒しかありません。こういった地域では診療所の存続も難しい課題です。後継者が都市部の病院で勤務し、診療所に戻ってこないということが非常に多くなっています。開業医の先生は地域の医療提供体制の重要な部分を担っています。へき地にも開業医の先生が増えて、地域の自治体病院と連携しながら地域医療を支えていければいいと思っています。
 西山 そうですね。兵庫県でも、地域の自治体病院と連携しながら、がんばっている開業医の先生がたくさんいます。そうした先生にはぜひ、後継者の育成も含めて地域医療を支え続けていってほしいと思います。そのために協会としてもできる限りの支援をしていきたいと思います。本日はありがとうございました。

図 厚労省の医師の需給推計
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