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政策解説 グラフで見る「財政危機」論のウソ・ホント 協会政策部

2018.11.05

 第4次安倍内閣が発足した。安倍首相は、社会保障改革を最重点課題に挙げ、3年で改革に道筋をつけるとした。2019年参院選までに、具体策や時期を盛り込んだ「工程表」をとりまとめる方針だ。医療分野では、(1)後期高齢者の医療費窓口負担の原則2割化、(2)かかりつけ医以外を受診したときの窓口定額負担導入、(3)薬剤自己負担の引き上げ、(4)金融資産を持つ者の窓口負担増、の4項目が焦点である。これら〝国民に痛み〟を与える改革を政府が合理化する根拠は「財政危機」論である。政府の「財政危機」の実態を、事実をもとに検証する。

国債発行の原因は法人税減税
 財務省は毎年、「日本の財政関係資料」を発表し財政の現状を公開している。それによると、「我が国の財政は引き続き深刻な状況に陥って」おり、「債務残高の対GDP比は主要先進国の中で最悪」「税収は予算の3分の2しか賄えず、残りの3分の1を公債金すなわち借金に依存しており、これは将来世代の負担になる」などとしている。つまり現在の財政は借金に頼っており、子や孫の世代が借金を返さないといけないというのである。
 では借金がなぜできたのか。財務省は主な要因として2点を挙げている。(1)高齢化の進行等に伴う社会保障関係費の増加、(2)景気の悪化や減税による税収の落ち込み、である。
 これを財務省自身が示したのが図1,2である(※紙面の都合で簡略化)。財務省の解説によると、1990年度以降「国債残高の増加額」は、2018年度までの28年間で約711兆円も増加。その間の社会保障関係費が、約293兆円増加した一方、税収は約199兆円減少した。財務省はこの二つの要因だけで「国債増加額の7割を占める」としている。要するに、社会保障関係費が増え、税収が減ったことが国債増加の最大の要因である、というのである。
 財務省のこの説明には、ウソは含まれていないように見える。しかし、なぜ税収は減ったのか、社会保障の給付水準が適正かどうかについては、さらに踏み込んだ分析が必要である。
 財務省は、特例公債(赤字国債)の発行から脱却することができた90年度を基準に、その後の増減を示している。つまり、歳入・歳出が90年度並のバランスで推移していれば、財政赤字にならなかったということだ。
 まず税収不足の実態について検証する。図3は、90年度以降の主要3税(法人税・所得税・消費税)の推移である。
 法人税は一度も90年の水準に達することなく、2015年度までに計170兆円の税収減となっている。所得税も2015年度までに計223兆円の税収減である。増収は消費税だけで、2015年度までに計123兆円の増収である。
 所得税と法人税の税収減について、財務省は景気の悪化とともに減税をその理由に挙げている。景気については、この間の日本経済は、低成長ながらGDPは増加し、大企業の内部留保は400兆円を超え、大企業は史上最高益を更新し続けている。安倍内閣以降だけでも経常利益は倍増している。
 減税については図4にあるように、法人税率は88年の42%から2018年23.2%までほぼ半減している。さらに「研究開発減税」など、利益の一定範囲を課税対象から除外する「課税ベースの縮小」も行われている。所得税については、株式譲渡等の分離課税分の税収減が、所得税減収の要因であると、財務省は指摘している。
 仮に、財務省が「基準年」とした90年度以降、90年度並の法人税、所得税が確保され続けていたとすれば、392兆円もの税収が確保され、同期間の社会保障関係費増230兆円を差し引いても、なお財政に162兆円の余裕があったことになる(図5)。国債発行の最大要因は社会保障関係費の増加ではなく、税収減なのである。
 財務省の同資料中の「政府の租税収入対GDP比」(図6)によれば、日本は、OECD諸国30カ国中28位で最低水準である。日本は経済力に応じた財政規模になっておらず、増税が必要なことは明らかである。
 ではどの税金を増やすべきか。税制の基本は応能負担原則、すなわち担税力を持つ者に課税することである。この原則に基づけば、増税すべきは、担税力の高い大企業の法人税であり、富裕層の所得税なのである。
 今、日本は富の偏在が大きく進んでいる。しかし、政府は、富の偏在に対して、合理的かつ効率的な課税を行っておらず、そのために国債頼みで「財政危機」を招いている。これが政府財政のホントの姿なのである。「財政危機」を根拠に、逆進性の高い消費税増税や社会保障費を抑制することは、本末転倒であり、ますます格差を拡大することになる。
社会保障水準は先進国最低
 次に、社会保障関係費は多すぎると言えるのか、検証する。日本は高齢化率が世界で極めて高いにも関わらず、「政府の社会保障支出対GDP比」はOECD諸国30カ国中15位で、「国際的に中程度」に過ぎない。つまり日本の社会保障費水準は決して過大ではないのである。むしろ、高齢化にあわせ社会保障を拡充すべきである。
 不合理な税制を改革すれば、社会保障の財源は生まれる。
 政府の「財政危機」論は、本来、社会保障の財源となるべき「法人税」や「所得税」の実態を覆い隠し、あたかも消費税増税だけが社会保障の唯一の財源であるかのように描くもので、典型的な世論操作である。安倍内閣は10月15日、2019年の消費税10%引き上げを表明したが、その理由は社会保障の財源に充てるためと説明している。
 なぜ安倍内閣は、巨大な担税力をもつ大企業、富裕層に対する増税についてなぜ沈黙するのか。経団連は10月15日、自民・公明の政策を5年連続で高く評価し、会員企業に積極的な政治献金を呼びかけると表明した。安倍内閣に財界の思惑通りの政治をさせるための政治献金である。
 「財政危機」論の本質を見抜き、社会保障拡充要求を堂々と掲げ、まともな税制を要求することこそが必要である。

図1 90年度以降の歳出の増加要因 約416兆円 
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図2 90年度以降の歳入の減少要因 約137兆円
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図3 90年度からの主要3税の増減
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図4 半減する法人税率
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図5 25年間(1990-2015)の累積比較
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図6 政府の租税収入(対GDP比)
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図1〜5は財務省「日本の財政関係資料」
図6は財務省「政府の租税収入対GDP比」よりそれぞれ作成

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