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特別企画 若手医師による匿名座談会 医師の働き方改革と新専門医制度

2019.03.25

 昨年春から新専門医制度が始まるとともに、厚労省は、医師の時間外労働の上限を年1860時間とするなどの「医師の働き方改革(案)」をまとめた。医師の研修・勤務やキャリア形成に大きな影響を与える制度変更を、若手医師はどう受け止めているのか。県内で勤務する卒後1・2年目の医師5人に、西山裕康理事長、森岡芳雄副理事長、足立了平副理事長が話を聞いた。
 

初期研修で専攻を検討中

 司会(森岡) 本日は卒後研修中の若手医師5人にお越しいただきました。まずは皆さん、研修を受けての感想はいかがですか。
 E 研修が始まって半年ですが、概ね満足しています。いろんな科の先生に話を聞くことができることは大きな利点だと思います。私は学生時代から小児科医になろうと決めていますが、私のような場合でも、どういう患者さんならどの科に相談したらいいのかという点に注目して話を聞くことができます。
 D 私のいる病院では内科を半年間とその他の科を1カ月ずつ回るのですが、学生の頃に思っていたよりも1カ月は短く、どこまで自分ができるようになっているのか、不安が残っています。
 C 各科を回って、科によって忙しさがかなり違うという印象です。
 A 私は研修2年目です。今の病院は忙しいと聞いて覚悟はしていましたが、勤務しはじめたら専攻医がよく働いていて、科により違いますが、思ったほどではなかったという印象です。来年から外科の専攻医になる予定です。
 B 同じく2年目で、来年からは循環器内科を専攻しようと思っています。2年目からは、ある程度裁量を持たせてもらい、責任が少しずつ増えて怖さも感じています。怖さを払拭するためには勉強が必要で、それは仕事だと思うので、働いた分の対価があればある程度忙しくても大丈夫だと思っていますが、「働き方改革」でそのあたりがどうなるかが気になっています。
 西山 私は外科出身ですが、1年目の大学病院勤務では、常に先輩に付いて、術前検査や検討会、手術、術後管理などすべて覚えて動かなければならず、忙しかったですが、大分変わったのですね。
 足立 市民病院で長く勤務して研修医を見てきましたが、昔は、徒弟制度のように先輩の背中を見て鍛えられる一方、やる気のない人は去れという、研修を受ける側のやる気任せという面がありました。しかし、必修化以降の研修制度は税金を投入しています。指導医が計画的に指導して研修医全員をミニマムのレベルに到達させるという制度に変わったのだと思います。
 司会 研修中は給料もなかった時代から見たら隔世の感はありますが、医療の専門化、高度化も進み、今の大変さはまた違うのでしょうね。

自主申告制の時間外労働

 司会 最近、医師の長時間労働が問題となり、さまざまな報道もされていますが、皆さんの労働時間管理はどうなっていますか。
 A タイムカードのようなものはありますが、ほぼ誰も記録していません。その時間が時間外労働となるわけではないからです。
 C うちの病院もICカードで出勤時間と退勤時間が記録されますが、時間外は紙に書いての自己申告です。
 B 「医師の時間外労働が多い」と報道されても、病院は「時間外を付けるのをやめろ」と言うだけで「時間外労働をやめろ」とはならないと思います。時間外労働を減らそうにも人員が増えるわけではないですから。ただ、当直明けは半日勤務とするなど、病院側も労働環境の改善をしようとしていると思います。
 西山 厚労省では、労働時間と自己研鑽をどう切り分けるかが議論されています。どう考えていますか。
 A 病院内でしかできない自己研鑽がたくさんあるため、すべてが労働時間として制限されると、修練の機会が足りないかなと思います。
 足立 新潟で研修医が亡くなりましたが、その直前は自分の勉強もあって夜遅くまで勤務していたということです。将来、患者さんに還元されるのだから自分のための勉強も勤務であるとして、労基署にはその時間も勤務時間に認定されました。皆さんの感覚からはどうですか。
 C どんな職業でも自己研鑽は必要だと思います。学生時代、塾でアルバイトしていましたが、授業の準備は授業時間とは別に行っていました。ただ、医師は患者の命を救う職業なので、職業意識、倫理観の高さが必要というところもあるかと思います。
 西山 プロ野球選手の練習は自分の利益のためだけですが、医師の自己研鑽は医師法でいう「医療を司る」ものの責務として、一定のレベルを保つのに必要です。ただ、すべてを労働時間としたら、上限を超過すると現場から離れざるを得ず、勉強できなくなるということになります。一方、すべてを自己研鑽とすると、医師が際限なく働かされることになり、心身の健康を損なってしまいかねません。
 司会 先ほど時間外労働を減らそうにも人員が増えないという話がありましたが、今の日本の医師数についてどう思いますか。
 B 科によって大分差があり、病院がもう少し、医師の配置を工夫したらと思う科はありますね。
 足立 一般的に不足と言われる救急より、緊急手術を担当する脳外科や心臓外科の先生方が大変という話を聞きました。
 B 確かに救急は完全シフト制なので、担当時間が終われば解放されますね。一方、患者さんは、自分の病気を診るのは主治医という意識が強いので、医師の働き方を看護師さんのように完全にシフト制にすることは難しいと感じます。

新専門医制度をどう見るか

 司会 昨春から新専門医制度が始まり、卒後研修終了後の3年目については多くの先生方がそのまま、迷わず専攻医研修を選択されるように思うのですが、いかがでしょうか。2年目のお二人は、秋の今の時点で専攻を決めておられますが、他の先生もそうですか。
 A そうですね。本来であれば、専攻医の登録がそろそろ始まる時期ですから...。
 B 去年までの話だと、登録は9月半ばには始まる予定だったのですが、「10月半ばに延期します」と言われたきり、10月半ばの今になっても何の情報もなく、どうなっているのかと気になっています(その後、11月半ばから第一次登録が開始された)。
 西山 新専門医制度で新たに基本領域とされた「総合診療専門医」については、どう受け止めていますか。
 A 3カ月研修したのですが、よく分からないという印象です。病院医療として総合的に診るのか、社会的背景なども含めて診る家庭医のような存在なのかで、概念が変わってくるかと思います。サブスペシャリティも含め、キャリアパスが描きづらいということもあるかもしれません。
 B 国が作ろうとしている総合医は、家庭医がメインだと思います。ただ、救急外来で患者さんを診ていると、症状に合わせて病院や診療所を選んでいるため、糖尿病でかかりつけ医がいても、違う症状だと救急外来に来られたりするのです。イギリス等では、家庭医を通して、病院にかかるというシステムになっていますが、厚労省が総合医をイギリスの家庭医のような存在として作ろうと思うと、今の日本の医療体制ではズレが生じるのではないかと感じます。
 西山 キャリアパスの話が出ましたが、開業という選択はどうですか。
 E 実家がクリニックなのですが、見ていて大変だと思います。医療以外の業務が多いですし、診療報酬も病院勤務の方が恵まれているのではないかと感じます。
 司会 皆さん県内の大病院で研修されていますが、地域密着の中小規模の市中病院での研修のあり方についてはどう思われますか。
 E デメリットが大きいと感じます。病床数が少ないとスタッフも少なく、どうしてもその病院独自で慣習化している部分が出てくると思います。自分の知識や技術がある程度身についてからでないと、気づかないまま、それが標準的だと思い込んでしまう可能性があるかと...。
 A メリットを見出すなら、自分で何もかもやらなくてはならないというところでしょうか。大病院では転院交渉は地域連携担当の先生がされますが、そういうことも含め、すべて自分で段取りしなければならず、勉強になるかと思います。
 西山 へき地や地方に行く意思のある人は若い人にも多いというアンケート結果もありますが、どうですか。
 A 私個人も含め、数年なら行ってもいいと思っている人は多いように思います。

女性医師の働き方は...

 司会 今、国家試験合格者に占める女性の割合は3割まで増えています。女性医師が働きやすい環境をどう作るかが、重要な課題になっていますが、女性のD先生は、ご自身のキャリアパスをどう描いておられますか。
 D そうですね...、臨床での勤務と出産が重なると厳しいと思っていて、出産のタイミングで大学院に行くことも良いのではないかと思っています。そこならある程度、自分の時間に合わせて実験等ができるのではないかと。
 臨床の場合、もし時短で先に帰れたとしても、他の先生方に残った仕事をお願いすることになってしまいます。今の病院で、時短の先生が帰った後、他の先生がカバーしておられる状況をみると、現場に出ないという選択をして出産する方が、周囲への負担は少ないと思います。
 足立 女性医師がそういうことを考えなければいけない雰囲気がまだあるのですね。
 B カバーに入った人に何らかメリットとなるような制度があれば、円滑にまわるのではないかと感じます。今は女性だけではなく、男性も育児をしなければいけませんが、男性医師で時短をとっておられる方はそもそもいませんので、取りやすくする工夫が必要と思います。
 西山 男性の働き方とも密接に結びつくので、総合的な対策が必要ですね。
 司会 やはり医師数が足りていないことが、根底にあると思います。協会は昨年には勤務医部を発足させました。今日のご意見も受け、勤務医の先生方の労働環境改善や生活のサポートなど、努力していきたいと思います。また、ご意見をお聞かせください。ありがとうございました。

参加者
A先生、B先生...A病院(500床以上)で研修2年目、男性
C先生、D先生、E先生...B病院(500床以上)で研修1年目、C先生・E先生は男性、D先生は女性
西山裕康理事長(1982年卒)
森岡芳雄副理事長(1981年卒)
足立了平副理事長(1978年卒・歯科)


 

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