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政策解説 厚労省「医師需給分科会」 医師の絶対数不足を放置 協会政策部

2019.05.25

 厚労省の「医療従事者の需給に関する検討会・医師需給分科会」はとりまとめを3月22日に発表した。そこでは、都道府県や二次医療圏の相対的な医療需要に対する医師数によって「少数区域」を定め重点的に偏在対策を取ること、開業医も「多数」とされた区域では開業制限を検討することなどが盛り込まれている。とりまとめの内容と問題点について解説する。
 

絶対数不足を無視した「偏在対策」

 とりまとめは、今年4月から施行されている「医療法及び医師法の一部を改正する法律案」で定められた医師偏在対策について、具体策を示したもの。
 「偏在」対策とされている通り、このとりまとめは、現状で「医師の絶対数は足りている」という認識を前提に、地域や診療科の「偏在」だけを問題として取り上げ、相対的に医師多数地域から少数地域へどのように医師を配置するかを考えたものである。
 しかし、日本の医師数はOECD諸国と比べて大幅に少ない。現在、日本の医師数は約32万人だが、OECD平均と比較すると12万人不足している。将来も追いつかず、高齢化を加味すると充足するとは言い難い。長く続く絶対数不足に目を向けていないために、抜本的な解決策となっていないことが本とりまとめの最大の問題点である。この事実を念頭に、以下とりまとめの内容について詳しくみていきたい。

医師偏在指標 下位3分の1「少数区域」に

 とりまとめでは、まず医師の偏在を示す基準として、「医師偏在指標」を定めた。これは都道府県および二次医療圏を比較し、相対的な医師数の多寡を比較するものである。この計算では、単純な人口に対する医師数ではなく、医師・患者それぞれについて、性別・年齢階級別の平均労働時間・受療率を用い、現在および2036年時点での指標を求めるとされている。
 次に、この偏在指標をもとに、「医師少数区域」「医師多数区域」を定義。これは、医師偏在指標下位3分の1の地域を「医師少数区域」、上位3分の1を「医師多数区域」とするとしている。
 3分の1で区切った根拠については、「2036年時点において、もっとも医師偏在指標が小さい三次医療圏(北海道以外は都道府県と同一。以下同じ)においても医療需要を満たすことを目標と」して、「同じ割合の三次医療圏が医師少数医療圏に該当するとし、各計画期間終了時に、医師少数三次医療圏の基準に達するとの目標を達すると仮定し」、シミュレーションした結果(図)だという。
 そして、医師確保対策については、「医師少数三次医療圏は、医師多数三次医療圏からの医師の確保を行える」「医師少数でも多数でもない都道府県は、都道府県内に医師少数区域が存在する場合には、必要に応じて医師多数三次医療圏からの医師の確保ができる」「医師多数三次医療圏は、他の都道府県からの医師の確保は行わない」とされ、「多数」とされた都道府県から、「少数」区域へ医師を移動することを促すと同時に、多数圏への流入を抑制するものとなっている。
 兵庫県の例をみると、兵庫県の「偏在指標」は、47都道府県中17位で、「医師少数でも多数でもない」都道府県とされている。二次医療圏では、神戸・阪神・東播磨・北播磨が「医師多数」、その他の二次医療圏は「医師少数でも多数でもない」で、「医師少数」の二次医療圏はない。医師不足が常に問題となっている但馬でも「医師少数」区域とはされていない。
 医師が足りているかどうかは、その地域に必要な医療をきちんと提供できるだけの医師がいるかどうかで判断するべきであって、相対的な順位付けで決まるものではない。但馬医療圏では、公立豊岡病院に医療機能を集積し多数の医師がいるが、その他の地域の病院は病床も縮小し、医師が足りない状況となっている。このように、広大な面積で人口が少ない地域では、「医師偏在指標」は高くなるが、実際には医師が不足しているということが起こってしまう。

「少数区域」勤務が病院管理者の要件に

 医師法・医療法改正法では、「医師少数区域で勤務した医師を認定する制度」が定められたが、分科会ではこの具体的な運用も検討された。
 「地域医療支援病院のうち医師派遣・環境整備機能を有する病院」の管理者要件に、「医師少数区域」での最低6カ月間の勤務が加えられることが決まった。
 この制度は、来年度以降に研修を開始する医師に適用される。果たして「要件」として妥当なのか、制度として有効なのか疑わしい上に、短期間とはいえ強制的な勤務は医師に負担を強いることとなる。
 現段階では対象となる病院も限定されているが、当初、検討会に出された案では、「保険医療機関の責任者」の要件とされており、今後、対象が拡大されかねない危険性を孕んでいる。

医師「多数」なら新規開業を制限

 厚労省は開業医の「偏在」についても、「将来に向けた検討事項」として、対策を打ち出している。
 「地域ごとの外来医療機能に関する適切なデータを可視化し、開業に当たっての有益な情報として提供する」として、「医師偏在指標」と同様に、「外来医師偏在指標」を定義し、上位3分の1を「外来医師多数区域」と設定した。
 そして、この区域での「新規開業希望者に対し、在宅医療、初期救急、公衆衛生等の地域に必要とされる医療機能を担うよう求め」、「地域で定める不足医療機能を担うことに合意」する欄を開業の際の届け出に求め、方針に従わない場合は「臨時の協議の場への出席要請を行う」「構成員と新規開業者で協議する場を持ち、その協議結果を公表することとする」としている。加えて、「規制的な手法等を含めた追加の対策」についても言及されている。
 つまり、「多数区域」とされた地域で、在宅や救急、学校医等を行わない医療機関は、地域医療構想調整会議などの会議で「協議」され、開業後の診療体制や計画を変更するように求められると考えられる。そして、応じない場合、開業を規制することも検討されるというのである。これは日本の医療を支えてきた自由開業医制を崩すものであり、政府主導の安易な規制に注意しなければならない。
 

図 医師少数区域等の基準の設定の仕方
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