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第95回評議員会特別講演「今、日本に必要な金融・経済・財政政策」講演録 消費税が日本経済を破壊する 京都大学大学院教授  藤井 聡氏

2019.07.05

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【ふじい・さとし】京都大学大学院工学研究科教授・レジリエンス実践ユニット長。内閣官房参与(第2~4次安倍内閣)。1991年京都大学工学部卒、1993年同大学院工学研究科修士課程修了後、スウェーデン・イエテボリ大学心理学科客員研究員、東京工業大学教授などを経て、現職。専門は公共政策論、都市社会工学。著書に『10%消費税が日本経済を破壊する』など

 協会が5月19日に開催した第95回評議員会特別講演「今、日本に必要な金融・経済・財政政策」(講師:京都大学大学院教授 藤井聡氏)の講演録を掲載する。(文責:編集部)

国民消費が導く経済成長
 本日は、消費増税ではなく、減税こそが日本に必要な財政政策だという話をさせていただきたい。
 まず、GDPについて説明する。GDPは、われわれの所得の合計値だ。現在日本の実質GDPは500兆円程度で、日本人全体で1年間に500兆円稼いでいる。誰かがそのお金を払っているということだ。
 支払い方には消費と投資の2種類ある。消費はGDPの60%、約300兆円を占めている。投資というのは、工場や病院を建てたり、機械を買ったりすることで、これが15%、約75兆円を占める。残りの25%は政府の支出で、国が道路をつくったり、社会保障費を支払ったり、公務員の給料を支払うことだ。
 これらをあわせて約500兆円で、経済成長はこの金額が増えることだ。まず、このことをご理解いただきたい。
 さて、図1は95年から15年までの各国の成長率ランキングだ。20年間で、全世界平均で139%伸びている。中国は1414%だ。先進国の成長率は低いが、ドイツでも30%だ。そのなかで唯一成長していない国が日本だ。成長していないどころか、20%もマイナスになっている。
 これくらい仕方ないかもしれないと思われるかもしれないが、経済は身長のようなもので、通常は伸び続ける。他の国はすべて成長している。
 なお、インバウンドなどと言われるが、GDPに外国人の消費が与える影響は1%程度であまり関係がない。日本が経済成長するには、日本人が日本国内で金を使わないといけないというのが基本だ。消費が増えれば、売り上げが伸びた店は新規出店をし、工場が作られるなど投資も増える。経済成長はわれわれの消費が導いているのだ。
リーマンショックより恐ろしい消費税
 図2を見てほしい。実質民間最終消費支出は、94年には約240兆円だったのが、18年には約300兆円と、一応伸びている。しかし、4回大きく減少している部分がある。このうち二つは、リーマンショックと東日本大震災・原発事故で、あとの二つは、消費税増税だ。消費増税が消費を冷え込ませ、経済停滞の原因になっている。
 もっと恐ろしいことがある。伸び率を見てほしい。消費税を5%に引き上げる前の伸び率は2.8%程度だったが、増税後は1.2%と3分の1ほどに下落している。リーマンショックや震災後は落ち込んだ後、伸び率は上がっているが、消費増税後は低い伸び率が続く。消費増税はリーマンショックより、何倍も恐ろしい経済破壊兵器だ。
 消費税は、消費に対する罰金だ。「炭素税」が炭素利用を減らすための税金であるように、「○○税」という税金は○○を減らすためのもので、消費税は、消費を減らすための税なのだ。
 消費が減少すれば、経済成長が止まる。消費税は成長を止める。このロジックが全く日本国民に知らされていない。うそと真実の隠蔽がまかり通っているのだ。
 図3は実質賃金の増減率だ。消費が伸びれば、賃金が増える。高度経済成長期から96年までずっと賃金は上がっていたが、消費増税、リーマンショックで下がり、回復しかけたタイミングで8%への消費増税を行って、また下がった。
 消費税で賃金が下がるのは、メカニズムがある。実質賃金は、額面の賃金を物価で調整したもので、実際どれだけのものが買えるかを表している。消費税を3%上げると、物価が必ず一律3%上がるので、100%間違いなく実質賃金は下落する。
 実質賃金が減れば消費は減る。消費が減れば賃金が減少し、また消費が減る。デフレという悪魔のスパイラルが起こる。8%消費増税後3年で、消費は約9%、約34万円減少した。
 90年代日本は世界に冠たる経済大国だった。95年、世界のGDPに占める日本のシェアは17.5%で中国の約8倍あった。97年の増税で名目GDPが伸びなくなり、15年にはシェアは5.9%と中国15.0%の約3分の1となり、経済大国と言えなくなった。
 1世帯あたりの平均所得金額は、97年の消費増税から135万円減った。10年なら1350万円、20年で2700万円になり、これだけあれば、家を建てられるし、車も買える。
消費増税は税収も減らす
 経済成長がマイナスになれば、税収も減る。財務省は、税収を増やそうと増税したのに、税収は減っている。
 赤字国債の発行額は、消費税を増税した97年までは年間3~4兆円くらいで推移していた。財務省は、消費増税によって、4~5兆円税収が増えて、赤字国債がゼロになると説明していた。しかし、結果は消費が減少して景気が悪くなり、所得税も法人税も減少し、赤字国債発行額の平均は22兆円に跳ね上がった。
 しかも、所得税・法人税の平均税率が低下している。これは税の仕組みである累進性によるものだ。
 消費税はすべての取引に3%かかる。所得税は低所得世帯では税率が5%で、所得が上がるに従って上がっていく。高度成長期やバブルのような時期は、平均所得が高いため、平均税率は高くなる。ところが今、消費増税により賃金が減っているので、国民の所得税の平均税率は低くなっている。
 法人税も同じだ。法人税は、外形標準課税を除くと儲けの部分にかかる。儲けている企業は3割程度だ。昔は半分以上の企業が黒字で、税金を払っていた。
 消費増税は実質的な法人税率と所得税率を下げているのだ。
消費税減税で日本を豊かに
 ここまできたら、今やるべきことは簡単だ。
 まずは増税凍結だけでなく、消費減税を行うことだ。消費税をゼロにすれば消費が増える。そして賃金が上がる。そうすれば、さらに消費が増える。ここで重要なのは、消費の中身だ。これまでラーメンを1杯食べていた人が2杯にするのでなく、ラーメンからステーキを食べようとなる。発泡酒がワインになる。消費文化が豊かになる。
 そうすると、1回に使う金額が増えて、利益が増え、以前より短い労働時間で、1日分になる。働き方改革は、短時間で生産性を上げろというが、その唯一の方法はデフレを終わらせることだ。スウェーデン人は、働く時間は短いが、豊かな生活をしている。モノの単価が高いからだ。薄利多売でなく、高利少売をめざすべきだ。そのためには、デフレをインフレに転換し、消費減税をするだけでかなり前に進む。まずは消費税を5%に下げるべきだ。
 財務省にとっても、賃金が増えれば所得税が、法人の儲けが増えれば法人税が増える。年3%の成長で良い。10年経てば、成長率は累計で40%ほどになる。消費税をゼロにすれば絶対成長する。
 GDPの3%成長というのは、約17兆円だ。それだけGDPが増えれば税収は2兆円増える。消費税をゼロにすれば、税収は単純計算で2兆円増え、法人税率も所得税率も実質増えるから3兆円増える。3兆円が10年増えれば30兆円になる。消費増税よりも豊かな財政を得ることができる。
 スウェーデンは消費税が28%だが成長できているじゃないかという反論があるだろうが、この理由は簡単だ。日本でも、89年に消費税を導入したときに影響があったかといえばなかった。消費税増税というのはモノの値段が上がるということだが、日本のインフレ率は、70年代では年率10数%、80年代になっても5%くらい伸びていた。徐々に率は下がっていたが、2~3%ずつくらい物価が上がっていたときに、消費税率を増やしてもそれほど影響がない。
 消費税の増税をしたいなら、デフレから完全に脱却し、物価が上がっていることが確認できれば、多少消費は落ちてもそれを乗り越えて物価が上がっていく。デフレ時の消費増税は絶対だめだ。
 また、社会保障費が毎年増えて、大変だから消費増税だと言っている。これはありとあらゆることが間違っている。社会保障費の自然増が約1兆円増えて大変だというが、消費税がゼロなら2~3兆円税収が増え、その半分を社会保障に回したら、今の体制を維持することができた。少子高齢化で大変というかもしれないが、税収自体が増えれば支えることができる。
 逆に、少子高齢化で社会保障費が増えたら、消費税率を天井知らずに上げるのか。そんなことは不可能だ。消費税を導入しないで、あるいは減税すれば、成長率が確保できて、社会保障費をまかなうことができる。

図1 各国の「成長率」ランキング(1995年~2015年までの名目GDP成長率) 
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図2 実質民間最終消費支出の推移とその年換算伸び率 
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図3 実質賃金の増減率 
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