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特別インタビュー 姫路市医師会長・医療法人社団 石橋内科理事長 石橋 悦次先生 医療機関の減収に合わせた補償を

2020.11.25

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姫路市医師会長 医療法人社団 石橋内科理事長
石橋 悦次先生

【いしばし えつじ】1955年生。79年川崎医科大学卒業、神戸大学附属病院、須磨赤十字病院、県立姫路循環器病センターを経て、89年より石橋内科院長、2000年より医療法人社団石橋内科理事長を兼任。1997年より協会理事。2020年に姫路市医師会長に就任。

 新型コロナウイルス感染症による医療機関経営への影響は深刻--。今冬、インフルエンザと新型コロナウイルス感染症の同時流行が警戒される中、受診抑制の影響はいまだ地域医療の病院経営に残ったままだ。姫路市内で広畑センチュリー病院や石橋内科、介護施設も展開する医療法人社団石橋内科理事長の石橋悦次先生に、その実情、経営保障策やインフルエンザとの同時流行に向けた医療提供体制確保の問題について、西山裕康理事長が聞いた。

医療機関の存続のために--診療報酬「概算払い」の実現は可能

 西山 私たちが実施した「新型コロナウイルスの感染拡大に伴う緊急アンケート調査」では、受診抑制による医療機関の深刻な経営悪化は明らかでした。先生の医療機関への影響はどうですか。
 石橋 一部の医療機関では、院内感染予防のために発熱患者を受け入れないという動きもありましたが、私たちのコンセプトは「地域に根差した医療」です。当院が発熱患者を受け入れないとなれば一番に困るのは地域の人ですから、そうした患者さんは積極的に受け入れて行こうという方針を掲げました。ですから、当院が受診を制限するようなことはなかったのですが、やはり患者さんには「病院で感染するのではないか」という不安があり、受診減と収入減につながりました。患者さんの要望もあって、4月頃からオンライン診療や長期処方を行うようになり、減収のピークを迎えました。6月ごろから徐々に回復してきましたが、今でも外来では約2割の減収です。
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聞き手 西山 裕康理事長

 西山 国や行政としては、医療機関に受け入れ規制を指示すると、その減収分を補償しないといけなくなりますから、あくまでも各医療機関の「自主判断」という形にしたのだと思います。先生は介護施設もお持ちですが、感染予防には相当気を使われたのではないでしょうか。
 石橋 そうですね。行政から受け入れ制限の要請はありませんでした。しかし、施設内での感染を防ぐため、利用者さん同士が極力ディスタンスをとれるように受け入れ人数の制限等を行いました。
 西山 なるほど。感染防止対策について国は一定の補助を医療機関や介護施設に行っていますが、やはり現場での受け入れ制限などは各医療機関任せで、受診抑制や経営悪化をいわば「自己責任」にしていますね。こうした中、協会では、地域の医療機関を、ひいては地域の患者さんの命と健康を守るため、受診抑制等による減収の責任を医療機関に押し付けずに政府が責任を持つべきだという考えから、前年度の診療報酬支払い実績に基づく差額補填、いわゆる「概算払い」を要求しています。
 石橋 その提案には私も賛成です。「概算払い」要求は日本医師会や四病協も求めています。基本的に医療機関は前年の収入を前提に経営計画を立てています。ですから今回の新型コロナ禍のように予期できないことで、数カ月間も収入が大幅に減少すると、各医療機関は当初の経営計画を全うできず、存続も危うくなります。予期できない点では自然災害と同じです。しかし現在、国による医療機関支援策は融資が基本となっています。融資では一時的に資金を得ますが、返済が必要ですので、経営計画の抜本的な変更が求められます。ですから、融資よりも、今年度の経営計画を全うできる概算払いでの対応が必要だと思います。
 また、国の医療機関に対する支援の中心が「新型コロナウイルス感染症の患者を受け入れた医療機関」のみになっているのも問題だと思います。受け入れていない医療機関でも患者さんの受診抑制により経営は悪化しています。受診患者さんが減っているのだから、政府の当初予算における医療費は余っているはずですし、各保険者もその分黒字になっているはずです。それを、減収した医療機関に給付すればよいのです。
 西山 確かに。私たちが要求している「概算払い」には新たな財源も不要で、迅速かつ簡単に実現可能なはずです。
 石橋 その通りです。

「診療・検査医療機関」に十分な補償を

 西山 新型コロナウイルス感染症とインフルエンザの同時流行に備え、厚生労働省は一般の医療機関を新型コロナウイルス感染疑いの患者を診る「診療・検査医療機関」として指定しています。
 石橋 姫路市内でも50以上の医療機関が指定を受けましたが、実際に診療できるのか不安だという声が多くの医療機関から上がっています。最も大きな懸念は万一、医師やスタッフが感染した場合の補償が少ないという点です。政府はこれまで、新型コロナウイルス感染症疑い患者について、感染防止対策を十分に行うことのできる一部の病院などを「帰国者・接触者外来」として指定し対応させてきました。それを今後は一般の医療機関に行わせるというのですから、その懸念も当然です。政府は新型コロナ診療の第一線を一般医療機関の手上げ方式とし、感染リスクや経営判断を丸投げしています。医療従事者の使命感に頼り切っていながら、医師やスタッフの感染やその後の診療体制は「医療機関の自己責任で」というのではいけません。
 西山 「診療・検査医療機関」については、協会で実施した「新型コロナウイルス感染症等の診療・検査体制に関するアンケート」でも指定の意向に関わらず8割の医療機関が、「検体採取等による感染リスク」を「不安要素」として挙げました。
 石橋 早期診断と地域医療の崩壊を防ぐ目的に、姫路市医師会は県下で最も早く「地域外来、検査センター」を設立し、感染リスクを減ずるという点で、医師会が仲介し姫路市と会員との間での唾液検査による集合契約を結びました。
 西山 明石市でも、感染リスクを下げ、対応可能医療機関を広げるために、患者自身が唾液を検査センターに持参してもらう方法が予定されています。
 医療機関における感染対策は地域医療を守るためにも非常に大切です。医師が1人しかいない一般の医療機関では、医師が感染したり濃厚接触者となった場合、診療ができなくなります。そうなれば、一定期間休診を余儀なくされ、医療機関経営が悪化するだけでなく、地域の患者さんにとっても必要な医療が受けられないことになりかねません。
 石橋 その通りです。やはり医師やスタッフが感染したり濃厚接触者となった際の経営補償が必要です。政府は、「診療・検査医療機関」の指定にあたり、補助金制度を設けましたが、今の制度では多くの発熱患者を診察した場合、補助金がなくなってしまう問題があります。

コロナ禍の教訓をどう生かすのか

 西山 HIVやSARS、MERSなどこれまでにも新興感染症の流行はありました。しかし、今回の新型コロナウイルス感染症ほど社会的に大きな影響を与え、医療従事者を含めここまで不安が広がっただけでなく、医療機関の存続まで危ぶまれるような経験はありません。この背景にはマスメディア、特にワイドショーが一面的な報道を行った影響が大きかったのではないでしょうか。
 石橋 全く同感です。また、グローバル化の影響で、世界中で感染と不安が広がったことも大きいと思います。日本とは全く状況の異なるヨーロッパでの感染拡大や死亡率が、病院にあふれかえる患者や疲労困憊する医療従事者の映像とともに、即座に日本に伝わりました。あのような映像を毎日見ていれば多くの人が「もうすぐ日本でも」「次は私かも」と思い、恐れるのは当然だと思います。この点について、姫路市医師会では毎年報道10社との懇談会をしています。今年はちょうど、ダイヤモンド・プリンセス号で新型コロナウイルス感染症が流行していたときに行いました。私はくれぐれもヒステリックな報道を控えるようにと要請しましたが、結果はご承知の通りです。
 西山 報道についてですが、医師をはじめとする一部の専門家にも問題があったのではないでしょうか? テレビで「国内の重篤患者が数十万人に達し、その半数が死亡する」と言っていた専門家もいました。マスコミには「煽る文化」があるとはいえ、こういった点にも問題があったと思います。
 石橋 そうですね。医学はサイエンスです。ですから、ある予測をして、それが実際と異なれば、なぜそうなったのかを説明しなければなりません。予測に用いたデータについても、どういうサンプルからどのよう統計を取ったのかを説明しなければなりません。一方で、今回の新型コロナ禍における私たち医師の教訓ということについて言えば、データとエビデンスがそろっていない流行の初期段階で、何の対応もできなかったことに尽きると思います。そしてその背景には医師が建前ばかりで本音の議論をしてこなかったということがあったと思います。データやエビデンスがそろっていない段階でも医師が率直に本音で議論して、対応をしなければなりませんでした。他にも恐ろしい疾患はたくさんあるのに「新型コロナは恐ろしい。とにかく感染予防を」という建前の議論に終止して、「自粛」による経済的ダメージや国民の生活困難、受診抑制による慢性疾患の増悪等々について、十分に議論できませんでした。
 西山 今後、私たちはどうすべきでしょうか。
 石橋 これまでどおり感染予防を進めると同時に、ただ「恐ろしい感染症だ」と騒ぐのではなく、重症化リスクを下げて、医療レベルを上げていくことが重要です。重症化しやすい症例を早期に把握し、適切に診断し、経過を十分観察し、重症化の兆候があれば早めに入院させ、より手厚い治療を受けさせる。そうして、新型コロナウイルス感染症のリスクを普通の風邪やインフルエンザ程度にまで落とし、スムーズな診断・治療体制を整備すれば、何ら恐れる必要はなくなります。そのためには、経済的な影響も考慮しながら、医師が本音でウィズコロナの時代にふさわしい新型コロナ対策を考えなければいけません。

現場に近いアドバイスをくれる協会に期待

 西山 先生は長年にわたり協会の理事をされ、病院・有床診療所部会をはじめ協会活動に携わっていただいています。
 石橋 このたびのコロナアンケートもそうですが、協会は常に医療現場の意見を聞き、適切な助言や効果的な提言を迅速にされており、いつも感心しています。私も引き続き協力できればと思います。
 西山 本日はありがとうございました。

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