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「オンライン」と保険診療(2) 「オンライン診療の導入」 オンライン診療も「立ち止まるべき」

2021.01.25

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埼玉県保険医協会副理事長 全国保険医団体連合会理事 山崎 利彦先生
【やまざき としひこ】日本大学医学部卒、埼玉県さいたま市浦和区で山崎外科泌尿器科診療所を開業。日本泌尿器科学会認定専門医。2019年より埼玉県保険医協会副理事長、2016年より全国保険医団体連合会理事・医科社保審査部員。2019年より全国保険医団体連合会マスコミ担当理事

 10月3日開催した政策研究会「『オンライン』と保険診療 進むべきか立ち止まるべきか」の講演詳録の2回目。今回は「オンライン診療の導入」。(第1回は12月15日付掲載)

きっかけは規制改革会議答申

 最近「オンライン診療」という言葉が使われるようになっているが、私たちにとっては「遠隔診療」という言葉の方がなじみがあるのではないだろうか。
 「遠隔診療」について簡単に振り返るが、そもそもは医師法第20条にて、「医師は、自ら診察しないで治療をし...てはならない」と対面診療の原則を謳っている。はじめて「遠隔診療」の概念が出てきたのは1997年12月24日に発出された「情報通信機器を用いた診療(いわゆる「遠隔診療」)について」という当時の厚生省局長通知で、離島・へき地での対面診療の補完としてならば医師法20条に抵触しないとされた。
 その後、この通知について、2015年8月10日に「1997年の通知は『あくまでも例示である』とする」事務連絡が発出された。ちなみに、この事務連絡は、規制改革会議がまとめた「規制改革に関する第3次答申~多様で活力ある日本へ~」を受けてのもので、この答申を主導したのは六本木のビルで精神科を開業しているような医師だ。ここが現在のオンライン診療の出発点となっている。

オンライン診療は受診勧奨や健康相談、モニタリング向き

 ところでオンライン診療に十分なエビデンスはあるのだろうか。図1は象牙でできた20㎝弱の人形だ。この人形は中国の明朝の頃から清朝の頃まで使われていたものだ。当時の中国では、男性が女性に触れてはいけないという考え方があり、特に女性が高貴な身分であればあるほどそれが徹底されていた。そこで当時、病気を患った高貴な女性は、医師に体を触らせないために、自分のどの部位がどう不調なのかをこの人形の部位を指して伝えていた。より高貴な身分の女性は、侍女にこの人形を医師に持って行かせ、「姫君はここが痛いと言っております」という具合に医師に伝えていた。つまり、中国では明朝の頃から遠隔診療がずっと行われていたのだ。
 それは東洋医学が「気」の流れというバーチャルな考え方に基づいた医療だから、遠隔診療と親和性が高かったのではないだろうか。よく、東アジアの歴史ドラマでは医師が手紙で患者の症状を知り、所見を書くというシーンが出てくるのはそのためだ。だからオンライン診療を普及させるというのであれば、ホリスティック・メディスンの分野や東洋医学で「未病」という概念で示される状態の患者に対する医療相談などの分野で普及させればいいのではないかと考える。例えば、「熱があるのだけどどうしようか」という患者に「医療機関にかかったほうがいいよ」と受診勧奨を行うなどオンラインによる医療相談、診療支援などはできるだろう。
 しかし、今の医学の大前提は解剖学と統計学であり、オンライン診療との親和性は少ない。

マスコミによるミスリード

 現状は話が歪められてしまっている。東洋経済オンラインに「コロナ禍が教えた『妊婦に遠隔診療が必要な訳』 医療過疎地域や離島の経験が今後の糧になる」という記事が掲載された(図2)。この記事で妊婦に対してオンライン診療を行っている医療機関が紹介されているが、実際に行っているのは妊婦に対する胎児モニタリングだ。検査データを送り妊婦健診を行っているだけで、登場する医師も「妊娠24週以前の超音波検査はとても重要」「対面診療とうまく組み合わせることが前提」といっている。にもかかわらず、この記事では、「遠隔医療は、現代では過疎地でも、都市でも、等しく基礎的なインフラではないか」としている。
 また、神戸新聞のウェブサイト神戸新聞NEXTに「養父市が『オンライン医療』今秋にも全国初導入」という記事が載った。養父という名医の町でなぜこのようなことをするのかと思ったが、しかし、記事を読むとこれは薬を届けるという話だ。初診や急患以外で症状が落ち着いている慢性疾患の患者に対して定期的な対面診療と組み合わせて、オンラインで医師が処方箋を出し、薬剤師の服薬指導を受けて、処方薬を郵送するというものだ。
 このように対面診療を基本とした遠隔「健診」や遠隔での「処方」が意図的に遠隔診療、オンライン診療という違う話にすり替えられているのではないか。私たちの医療行為のコアとなる保険診療の周辺分野について、オンラインでできることについて議論することを妨げる必要はないが、保険診療の中心部分にオンライン診療を導入しようとする国の姿勢は問題だ。

コストに見合わないオンライン診療システム

 私は実際に、オンライン診療システムを提供している会社2社から営業担当者を呼んで話を聞いた。現在の保険診療上の取扱いでは、オンライン診療で各種の管理料を算定することはできない。営業担当者によれば、管理料相当分は「選定療養費制度における予約診療費を徴収すればよい」とのことだった。さらに、その予約が患者さんの都合でキャンセルされた場合も「クレジットカード決済なので徴収することができる」とのことだった。診療してない人から予約診療費を徴収してよいのだろうか。厚労省によれば、実際には徴収できないというルールになっているようだ。
 しかも、こうした会社のオンライン診療システムは契約料が約400万円で、一度契約するとキャンセルはできない。コンピューターなどのハードウェアは何もなく、システムだけでこの値段だ。こうした業者が幅を利かせている。
 新型コロナ禍にあって埼玉県知事が初診からオンライン診療を実施した医療機関に対し、患者1人につき3000円の補助金を出すという施策を始めた。今でも県のウェブサイトに、オンライン診療を行っている医療機関の一覧がずらっと並んでいるが、実際にはもうほとんどが実施していない。そもそも、初診からのオンライン診療では保険証の確認もできず、ほとんどの医療機関が県から3000円受け取って実施するより、しないほうが良いと判断している。
 また、業者によっては患者さんの通信環境に依存してオンライン診療システムを構築しているところがある。携帯電話回線事業者の㎝でよく「ギガ不足」とか「ギガが足りない」などというフレーズが出てくる。これは、月ごとにスマホの通信容量の上限が決まっている契約があり、それ以上の通信には制限がかかって、通信速度が遅くなるということを指している。つまり、いざオンライン診療を行おうにも、月末で患者さんの「ギガが足りない」状況によって、患者さんの表情が分からない、通話も途切れるというようなことが起こるのだ。オンラインシステム会社によってはこうした状況を回避するシステムのところもあるようだが、月初はスムーズにオンライン診療ができるが、月末になるとできないなどという状況ではとてもオンライン診療などできない。
 患者さんも医療機関でも今のテクノロジーや通信インフラではオンライン診療はできないのではないだろうか。健康相談や健康管理、モニタリングには使えるのだろうが、それで保険診療を行うというのは無理があるだろう。やはりオンライン診療についても、「立ち止まった方がいい」ということだろう。


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図1 中国の女性が男性医師から診察を受けるための象牙の人形

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図2 東洋経済オンラインの記事(https://toyokeizai.net/articles/-/350170

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