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特別インタビュー 神戸市立医療センター中央市民病院 感染症科副医長 黒田浩一先生 コロナ対策阻む医療資源不足

2021.04.25

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神戸市立医療センター中央市民病院 感染症科副医長
黒田 浩一先生

【くろだ ひろかず】2009年名古屋大学医学部卒。2016年から亀田総合病院感染症科、2019年から神戸市立医療センター中央市民病院感染症科に勤務。日本内科学会総合内科専門医、日本呼吸器学会呼吸器専門医、日本感染症学会感染症専門医

 猛威を振るう新型コロナウイルス感染症--。病床の逼迫やワクチンの副反応などが懸念されている中、開業医や民間病院が果たすべき役割とは何か。神戸市立医療センター中央市民病院感染症科副医長の黒田浩一先生に話を伺った(インタビューは4月7日に実施)。

コロナ予防へワクチン接種を推奨

 西山 本日はよろしくお願いします。日本国内でもワクチン接種が始まりました。先生は「新型コロナウイルスワクチン(COVID-19ワクチン)Q&A」を公開し、ワクチンに関するさまざまな疑問に答えておられます。しかしワクチンの副反応について、懸念する声は少なくありません。ワクチン接種についての考えをお聞かせください。
 黒田 日本で接種が始まっているファイザー社製のワクチンは、イギリス型変異株も含めて高い効果が確認されています。さらにこのワクチンは、重症化を100%近く防ぐだけではなく、感染を90%、発症を95%予防できるとされており、新規感染者数・重症患者数を減らす効果が期待されます。また重症化が少ないとされる若年者でも、感染後に味覚障害などの後遺症が残る人も少なくありませんので、若年者であっても接種すべきと考えます。
 副反応については、アナフィラキシーについて、盛んに報道されていますが、騒ぎすぎという面が否めません。アナフィラキシーの国内発生はごくわずかで、アドレナリンの筋肉注射で速やかに改善しています。アレルギーの既往がある方は注意が必要ですが、集団接種会場など、対応の準備ができているところで受ける分には問題ないと考えてよいでしょう。
 とにかくワクチン以外の予防法がなく、有害事象も多くはなく、抗ウイルス薬などの治療法もほぼ開発されていませんので、感染時や後遺症のデメリットを考えると、患者さんにワクチン接種を勧めていただきたいと考えます。
 西山 副反応への懸念等から、日本で開発中のワクチンを待っても良いのではという考えの方もおられます。
 黒田 一部メディアで、「日の丸ワクチン」開発への期待が報道されていますが、現時点では開発と普及のめどは立っていません。接種の遅れ、感染の拡大にもつながるので、現在のワクチンを接種すべきでしょう。
 西山 ワクチンは年齢を問わず、接種すべきだということはよく分かりました。ただ、一方で接種しない人もおられます。非接種者への差別が出てこないでしょうか。
 黒田 もちろん接種は強制ではなく、差別は避けなければなりません。しかしEUなどでは、「グリーン・パス」と呼ばれる、ワクチンの接種証明書の導入の検討が進んでいます。各国間の移動や経済活動の本格再開などを行うにあたり、日本でも同様の制度を検討したほうが良いかもしれません。

逼迫するコロナ病床と一般医療の大幅減少
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聞き手 西山 裕康理事長

 西山 新型コロナウイルス感染症は、4月に入り変異株を中心に県内でも拡大傾向が続いています。今後も拡大が予想されますか。
 黒田 増加はしばらく続くでしょう。すでに兵庫県では新規感染者数は第3波を超えているので、感染者の抑制には、年末年始の緊急事態宣言よりも強力な措置が必要ですが、「まん延防止等重点措置」が発令されたのみですから、急増は必然です。
 西山 第4波は変異株が中心ですが、現在分かっていることを教えてください。
 黒田 まず、変異株は感染性が高いことは間違いないので、感染対策の徹底がいっそう重要です。また、主に60歳未満を対象としたイギリスでの調査では、致命率が上がったとされています。死亡者のほとんどを占めている高齢者においては、死亡リスクが増加するか、まだはっきりと分かっていないため、実際に致命率が高まるかは不明です。重症化についても、重症者数は第3波を超えていますが、これも感染者の総数が増えていることもあり、変異株が重症化しやすいと結論付けることはできないと考えます。
 西山 重症者病床の逼迫が日々報道されており、すでに医療崩壊が起こっていると感じていますが、最前線での状況はいかがですか。
 黒田 当院は14床の重症病床と32床の中等症病床を備えていますが、重症患者は第3波のピークを超え、重症病床満床の状態が持続し、中等症病床でも重症患者に対応している状態です。第3波時点では、入院患者のPCR検査陰性を確認してから退院させていました。しかし現在は、病床逼迫のため、検査陽性で感染対策が引き続き必要な患者でも、軽症者を受け入れる病院へ転院させざるをえない事態となっています。このように苦心して病床を調整し、午前中に2,3床の空床を確保しても、午後には埋まるという状況が続いています。
 西山 一般医療への影響はどうでしょうか。
 黒田 すでに一般医療は縮小しています。当院はもともと750床でしたが、現在はコロナ病棟以外の病床は450床程度にまで減らしています。これはコロナ病棟に必要な大量の看護師を確保するためであり、現在、14床あるICUには1対1、中等症病床には4対1で看護師が配置されています(その後中等症病床は重症患者が増加したことにより、2対1看護となった)。このように一般病床を減らして対応していますが、それでも看護師数は足りず、夜勤の回数は増やさざるを得ない状況が続いています。また、看護師のスキルに因るところも大きく、たとえば、人工呼吸器を扱ったことのない看護師を重症病床に配置することはできません。大規模病院でもこのような状況ですので、200床前後の病院が重症患者を受け入れるのは困難だと思います。
 西山 おっしゃる通りです。自治体によっては後方病院への補助が行われていますが、ベッドが数床空いていても、動線分離や勤務体制の変更などが必要で、すぐに患者を受け入れられるわけではありません。民間病院の受け入れ数が少ないとの批判もありますが、各医療機関の現状を見るべきと思います。やはり、公立・公的病院や感染症病床の縮小を進めてきた弊害が出ていると考えられます。

民間病院との役割分担が重要

 西山 協会は、多くの民間病院も会員ですが、要望することはありますか。
 黒田 民間病院が感染患者を受け入れると、その病院の稼働病床数が減ってしまうのは確実で、そうなると赤字経営に陥るのは避けられません。たとえば、5床の感染病床を確保するために、一般病床を40床減らすなどすれば、おそらく赤字になるでしょう。公立・公的病院は税金による補填も可能ですが、民間病院で赤字が続くと、倒産につながりかねまません。そのようなリスクをとることは現実的ではありません。民間病院にも感染患者受け入れに対しての補助金が出ていますが、それだけで今後の経営を維持するのは困難でしょう。ですので、感染対策が不要となったものの、その他の理由、例えば廃用症候群などリハビリが必要な状態となり入院継続が必要な患者さんを受け入れるのが現実的だと思います。感染症からの回復後も、高齢の患者さんではADLが落ちてしまいますので、そういった患者さんに対する医療連携を高めていただければと思います。また当院でも一般医療はかなり縮小していますので、感染症以外に対する医療提供と役割分担も重要だと考えます。
 西山 感染患者受け入れに伴うさまざまな困難や、提供可能な医療資源の面でも、民間医療機関は、回復期や一般医療に力を入れることは理に適っていますね。
 黒田 一般医療については、救急医療が特に心配です。当院も今はまだ救急患者の受け入れが可能ですが、重症の新型コロナ患者の増加の程度によっては、縮小する可能性はあると思います。
 増加する新型コロナ患者に対応するには、根本的には病床を増やすしかないのですが、各病院の努力では限界があります。コロナ治療を充実させるには、やはり一定の強制力がある行政による指示のもとで必要な病床を確保しないといけません。現在でもサチュレーション90%以下の人しか入院ができない状況になっています(4月20日現在では、90%以下でも入院できない患者が続出している)。このまま重症者数が増えると、入院が必要な患者でも搬送先が見つからないことが起こりえます。最終的には県知事が決めることかもしれませんが、他の自治体では、挿管できる患者の受け入れ体制を、1週間で50人増やしたりもしています。これは、大規模な公立・公的病院に、病床を増やすように知事が指示しているからです。
 兵庫県は、県下で数病院しか重症患者を受け入れておらず、50人ほどの挿管患者しか治療できません。当院でもぎりぎりのところで挿管せずに治療している患者も多数おられます。重症病床に空きがない状態のため、中等症病床の人員を充実させ、挿管患者に対応できるように体制を構築しているところです。
 西山 感染患者の受け入れには、コスト面や人員面でのハードルが極めて高いことがよく分かりました。協会としても、兵庫県に対して、医療従事者の体制強化と重症者病床を中心とした新型コロナ病床の確保、また感染患者を受け入れて奮闘する病院を中心に、減収補填などを引き続き強く求めていこうと思います。本日はありがとうございました。

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