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特集 2022年参議院選挙 寄稿
世界の真の対立軸を見極める  関西学院大学教授 冨田 宏治

2022.06.25

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世界の情勢を正しく見る
 2年余りも続くコロナ禍とこの2月に突然開始されたロシアのウクライナ侵略によって、世界と日本は先行きの見えない混沌状態に置かれているようにも見えます。
 630万を超える人命を奪ったコロナ禍によって、世界中の人びとは人間の生命の大切さを改めて思い知らされました。その最中に開始されたロシアによるウクライナ侵略と核脅迫。市民への無差別攻撃や無惨な虐殺行為のくり返しに、戦争こそが人間の尊厳を根底から破壊する最悪の蛮行であることにも改めて気づかされています。しかしそんな中、日本ではロシアの蛮行に便乗する火事場泥棒さながらに、「9条で日本が守れるのか」と改憲を叫ぶ声が喧しく飛び交っているのです。
 こんな時だからこそ、世界と日本を巡る出来事の基本的な対抗軸がどこにあるのかをしっかりと見極めていくことが大切です。
核禁条約の発効は「法の支配」の表れ
 昨年1月22日、核兵器禁止条約が発効し、世界は核兵器の開発、実験、製造、取得、保有、貯蔵、移転、受領、使用、威嚇などが国際法で違法化された新しいステージへと進みました。批准国はすでに62カ国となり、核兵器のない世界に向けたカウントダウンが着実に進みつつあります。
 これは「原爆は人間として死ぬことも人間らしく生きることも許しません」という被爆者の声に世界が真摯に耳を傾け、人間の尊厳を根こそぎに奪い去る最悪の非人道兵器を決して許さないとの国際社会と市民社会の強固な決意がもたらした歴史的達成です。
 核兵器禁止条約を生み出したのは、(1)核大国による拒否権の発動を許さず、熟議を尽くし大国も小国も平等な1国1票の多数決で決めていこうとする民主主義の流れ、(2)核大国の「力の支配」に、大国も小国も平等に国際法に従うべきだとする「法の支配」を対置する流れ、(3)核兵器で敵を威嚇・脅迫し、恐怖で縛る「核抑止力論」を否定する流れ、(4)国際紛争の平和的解決の流れ、という国際社会の不可逆な流れに他なりません。
 それは、「全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免れ、平和のうちに生存する権利を有する」ことを謳い、9条で戦争と戦力の放棄を、25条で国民の生存権を、そして13条で個人の尊厳を明確に規定した日本国憲法に、世界がようやく追いつこうとしていることをも示しています。
平和を望む国際社会がロシアを包囲
 ロシアによるウクライナ侵略は、核兵器禁止条約を生み出した世界の流れに真っ向から挑戦する野蛮な逆流です。
 (1)国連安保理で拒否権を発動できる大国ロシアが、国連憲章違反の侵略行為に撃って出たうえ、露骨な拒否権行使によって安保理を機能不全に陥らせました。5大国の拒否権がこれほど露骨に発動されたことはありません。しかし1国1票の民主主義を求める国際社会は、これに屈せず、すかさず国連緊急特別総会を招集して、3月3日に141対5の圧倒的多数でロシアによるウクライナ侵略への非難決議を採択。さらに24日にもウクライナ侵略に関する人道決議を140対5で可決したのです。
 (2)ウクライナ侵略の開始にあたりプーチン大統領は、ロシアは「世界で最も強力な核保有国の一つ」だと公言し、「抑止力」の「特別態勢移行」を命じました。以来折に触れ核使用をちらつかせて世界を威嚇しています。これらは極めて露骨な核脅迫です。「核抑止」の正体が核脅迫に過ぎないことがこれほど明白に示された例もありません。これは禁止条約がはっきりと違法化した核兵器の「使用の威嚇」そのものです。
 (3)ロシアによるウクライナ侵略は明白な国連憲章違反であり、ウクライナ各地でくり広げられている市民への無差別攻撃や虐殺行為は国際人道法に反する「人道に対する罪」を構成します。こうした蛮行は、「法の支配」への真っ向からの挑戦です。プーチンはじめ戦争犯罪人は法により裁かれねばなりません。
軍事費拡大路線はプーチンと同じ道
 ロシアのウクライナ侵略に便乗して、火事場泥棒的改憲論が噴出しています。「憲法9条で日本が守れるのか」。敵の中枢をも殲滅する「敵基地攻撃能力」を保有すべきだ。軍事費を倍増すべきだ。「核共有」について議論すべきだ。軍事大国化や核武装までを視野に入れた暴論が、ここぞとばかりに飛び交っています。
 大切なのは、「核兵器禁止条約を生み出した世界の不可逆な流れ」対「これに真っ向から挑戦するロシアのウクライナ侵略」という対立軸を見極めた時、この火事場泥棒的改憲論がどのように見えてくるかということです。
 それらに共通するのは、「力」には「力」を、「力の支配」には「力の支配」を、「抑止力」には「抑止力」をという古臭い論理です。核兵器禁止条約を生み出した世界は、「力の支配」に対しては「法の支配」を、大国の横暴に対しては熟議と多数決による民主主義を対置する、新しい世界を展望しているのです。
 こういう視点で見た時、自民や維新をはじめとする改憲勢力はプーチンと同じ側に立つもの以外の何者でもないことがわかります。プーチンのような存在を日本では決して生み出さないことこそが憲法9条の意味です。改憲勢力は、自らがプーチンのように「力」をふるい、他国を蹂躙し、核兵器で世界を脅迫したいからこそ9条が邪魔なのです。こうした構図を見極め、多くの人びとに語り広げること。それこそが、いま求められているのです。
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