兵庫県保険医協会

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政策研究会「政府が進めるマイナンバーカード普及政策の問題点」講演録
違憲・違法の保険証廃止は撤回を

2022.12.15

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坂本 団(さかもと まどか)弁護士
京都大学法学部卒業。1993年、弁護士登録。2014年から2017年まで、日本弁護士連合会情報問題対策委員会委員長。現在、同副委員長。大川・村松・坂本法律事務所勤務の傍ら、大阪大学大学院高等司法研究科客員教授を務める。著書に『狙われる!個人情報・プライバシー』『デジタル社会のプライバシー』『名誉毀損の法律実務-実社会とインターネット』など

 協会が10月22日、開催した政策研究会「政府が進めるマイナンバーカード普及政策の問題点-医療分野における保険証廃止とオンライン資格確認義務化を含めて」(講師:坂本団弁護士・日本弁護士連合会情報問題対策委員会副委員長、大阪大学大学院高等司法研究科客員教授)の講演録を掲載する。
マイナンバーカードとは?
 法的に言うと、マイナンバーカードは、「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律(番号法)」に基づいて発行されている。同法16条には、マイナンバーの提供を人から受ける時は、マイナンバーカードを見せるその他の措置で本人確認をしないといけないとある。つまり、マイナンバーカード以外にも本人確認の方法はある。
 そして17条で、「申請により、その者に係る個人番号カードを交付する」とある。法律上の規定はこれだけだ。
 そもそもマイナンバー制度とは何だったのか。導入趣旨として、①公平・公正な社会の実現、②行政の効率化、③国民の利便性の向上の三つが示されていたが、制度導入から7年、私たちの暮らしは何か便利に、公平・公正になっただろうか? むしろ番号提供や本人確認が必要になった分、手間が増えた。社会の格差はますます拡大し、不公平・不公正になっているように感じる。
 マイナンバー制度の仕組みとして、政府は3本柱を示している。まず、①国民全員に番号を付け、②複数機関において同じ番号でひも付けして相互に活用し、そして、③本人確認だ。番号制度をとる他国でもなりすまし犯罪が必ず起こって困っているので、本人確認をきちんとするという。
 たとえば講演料を受け取る際には、講師はマイナンバー提供が求められ、この時に本人確認をしなければならないとされていて、その証明がマイナンバーカードでできるという。マイナンバーの記載された住民票と運転免許証やパスポートがあれば同じことができるが、マイナンバーカードなら1枚でできる、これがメリットだという。
 他のメリットとしてデジタル庁が宣伝しているのは、健康保険証やワクチンの接種証明にも使える。コンビニで証明書を取得できる等々だ。これらは、マイナンバーカードの裏面に埋め込まれているICチップを利用する。このICチップは、マイナンバー法上の本人確認とは関係がなく、総務大臣が認める民間事業者も活用可能となっている。利用には4桁の暗証番号が必要だ。
 「住基ネット」を覚えておられるだろうか。1999年に導入され、国民一人ひとりに11桁の番号がふられた。国民総背番号制と言われ、私も違憲訴訟に関わったが、このときも「住基カード」というカードがあり、ICチップで電子証明書の利用と身分証明書ができて便利になると、マイナンバーカードと同じことを政府は言っていた。3年で国民の5割が持つという計画を立てたが、12年かかって交付率がわずか5.6%、20人に1人で、大失敗した。
マイナカードの普及推進策
 法律施行前後の政府のロードマップでは、マイナンバーカードは、キャッシュカードやクレジットカードとしての利用が想定され、2020年のオリンピックの入場券に使うことで普及することを狙っていたが、コロナで目論見が外れた。
 そして2021年には、2022年度末までにほぼ全国民に行きわたることをめざすという無理な目標を立て、市区町村へ交付状況を公開したり、未申請者に申請呼びかけを郵送したり、補正予算で1兆8千億円をかけてマイナポイント第2弾を実施した。
 しかし、これだけの予算や手間をかけて、9月末時点での交付率は49.0%と半分に達しなかった。このため、保険証利用によってカードを推進しようと政府は考えたのだと思う。
オンライン資格確認 強引すぎる義務化
 オンライン資格確認は昨年4月から開始予定だったが、システム不備で遅れ、昨年10月からスタートした。医療機関や薬局の窓口で患者の資格情報が確認でき、期限切れの保険証による受診が防げる等事務コストが削減でき、特定健診や診療・薬剤情報が閲覧できて、医療機関にも患者にも便利であるという打ち出しだった。
 オンライン資格確認は、マイナンバーカードでなく健康保険証でもできる。医療機関向けにはそのように宣伝されているが、患者に同様に宣伝するとマイナンバーカード取得が進まないため、患者向けにはあまり知らされていない。
 医療機関のカードリーダーの申し込みは、今年5月時点で6割程度、システムの準備ができたのは4分の1、運用を開始していたのは5分の1だった。
 目標としていた、今年度中に概ねすべての医療機関での導入実現のため、電話やダイレクトメールで催促するなど、集中的な取り組みを行ったが、それでも思ったように申し込みが進まず、政府は義務化しかないと考えたようだ。
 6月7日に閣議決定された骨太の方針に突如、2023年4月からのオンライン資格確認システム導入の原則義務付けという文言が入ってきた。
 そして「2024年度中を目途に保険者による保険証発行の選択制の導入を目指し、さらにオンライン資格確認の導入状況等を踏まえ、保険証の原則廃止を目指す」とある。ただし、ここでは注釈として小さな字で「加入者から申請があれば、保険証は交付される」と書いてあった。カード取得は任意で、保険料を払っているのに、保険証を渡さないというのは法的にありえないからだ。
義務化の多くの問題点
 オンライン資格確認義務化の問題点を整理してみた。
 第一に、十分な議論もなくあまりに拙速だということだ。5月25日の社保審医療保険部会で突如盛り込まれ、9月5日には省令(療養担当規則)改正に至っている。
 第二に、医療機関に重大な負担を強いる。カードリーダーなどの導入の初期費用の一部は公費で手当てがあるが、その後の運用費用はセキュリティ費用も含めて、医療機関の負担となる。サイバー攻撃のリスクなどもあり、現場で混乱が生じるのは必至だ。
 第三に、法律によらずに強制するということだ。法改正でなく、省令(療養担当規則)改正で義務化を決定し、保険医療機関取り消しも有り得るというのは、医療機関の経営の自由の侵害という点から問題だ。
健康保険証廃止の問題点(表)
 そんななか、河野デジタル大臣が10月13日、保険証を2024年に原則廃止すると発表した。あまりに唐突かつ拙速な発表で省庁間での調整すらできていなかったのではないかと思う。
 これは、番号法17条で申請主義を定めているマイナンバーカード取得の義務化に等しく、法律違反だ。マイナンバーカードがなければ保険料を払っても保険診療が受けられないなら、憲法13条や25条、健康保険法違反といえるのではないか。
 日常的にマイナンバーカードを所持すると、券面記載事項の漏洩や電子証明書の不正利用などのリスクが生じる。また、紛失・盗難時にどうするかという問題があるが、すでに運用が始まっているのにこの問題はまじめに検討されていない。カードの再発行までは医療機関を受診できないということになってしまう。
 さらに、政府が言うように、マイナンバーカードに情報を一元化した場合、カードを紛失し再発行する際にどのように本人確認を行うのか? その手段がなくなってしまう。
 どれだけ政府がカードを推進しても、カードを取得できない人、しない人は必ず残る。認知症が進行している方が医療を受けたい場合にどうすればいいのか。健康保険証の廃止は現実的には不可能に感じる。「保険証廃止」と打ち出し、カードが必要と思わせる炎上狙いではないかと疑っている。
訴訟も含めて反対運動大きく
 究極的には、個人の病歴がすべて記録され、個人情報の集約に役立つこととなる。
 そして、オンライン資格確認とあわせて、21世紀のハコモノ行政であり、壮大なムダだ。費用対効果の検証もしておらず、多額の費用を使って、大した利便性もない。かつては、列島改造などとして、高速道路やダム等大型公共事業のバラマキが行われていたが、それが現在はデジタル投資に移っていて、利権となっている。何千億円の予算を使って、潤うのはNTTや大手のITゼネコンだ。
 オンライン資格確認にすべての医療機関が対応することは、保険証廃止の不可欠の前提だ。つまり、この義務化を中止できれば保険証廃止も止められる。
 二つセットで世論を作っていくことが重要と考える。問題提起のためには訴訟も活用を検討してほしい。レセプトオンライン義務化のときには訴訟をして、和解に至った。ぜひ裁判に打って出ていただいて、おかしいと声を上げていただくといいと思う。
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表 健康保険証の廃止の問題点
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