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政策解説 「骨太の方針2023」(2)
コロナの反省なしに医療費抑制 - 兵庫保険医新聞 | 兵庫県保険医協会<

2023.07.05

 前号に続き、6月16日、政府が発表した「骨太の方針2023」の問題点を解説する。前回では、総論と診療報酬・介護報酬改定について取り上げた。今回は医療提供体制の改革、医療DXの推進、歯科分野、創薬力の強化などについて解説する。

医療費の地域差半減に注意
 「骨太の方針」では、医療提供体制の改革について、「1人当たり医療費の地域差半減」「地域医療構想の推進」「かかりつけ医機能が発揮される制度整備」「実効性のある医師偏在対策」「医療専門職のタスク・シフト/シェア」などが謳われている。
 「1人当たり医療費の地域差半減」に関わっては、2024年から都道府県で実施される第4期医療費適正化計画策定に向けて、厚労省が昨年11月に明らかにした「医療費適正化計画の見直しについて」で「医療費見込みの精緻化」、「医療費が医療費見込みを著しく上回る場合や、都道府県計画の目標を達成できないと認める場合に都道府県が取り得る措置として、高確法第9条第9項に基づく保険者・医療関係者等に対する協力要請があることを明確化する」「効果が乏しいというエビデンスがあることが指摘されている医療(例:急性気道感染症・急性下痢症に対する抗菌薬処方)、医療資源の投入量に地域差がある医療(例:白内障手術や化学療法の外来での実施、リフィル処方箋(※))」について「個別の医療サービスについて、エビデンスや地域差に基づく新たな目標を設定(する)」としている(表参照)。
 つまり、自治体と保険者が一体となって、都道府県ごとの医療費を比較し、医療費が相対的に高い地域では、急性気道感染症・急性下痢症に対する抗菌薬処方が認められなかったり、白内障手術や化学療法の入院での実施が認められないことが考えられる。
さらなる病院統廃合を推進
 「地域医療構想」については、引き続き公立・公的病院を中心に、さらなる統廃合が予想される。
 しかし、コロナ禍で明らかになったように、地域における病床の一極集中は、ひとたびその高機能病院でクラスター等が発生した場合に、コロナ患者への対応のみならず通常の医療提供にも制約が出るなどの支障があったことが全国的に報告されている。
 高機能病院の整備とあわせて、中小病院の役割を見直し、評価することこそ求められている。
医療費抑制のための「かかりつけ医」推進を警戒
 「かかりつけ医機能が発揮される制度整備」については、今国会で成立した「全世代対応型の持続可能な社会保障制度を構築するための健康保険法等の一部を改正する法律」により、「かかりつけ医機能について、国民への情報提供の強化や、かかりつけ医機能の報告に基づく地域での協議の仕組みを構築(する)」とされている。
 今回は、イギリスのGPのような強制力を伴うかかりつけ医制度の導入は見送られたが、依然として「コロナ禍で、開業医が発熱患者を診療しなかった」などという悪質なデマに基づく言説も多く、医療費抑制政策のために議論が再燃する可能性は残っており、注意が必要である。
 「実効性のある医師偏在対策」については具体策が上がっていないが、医師の絶対数不足を認めず、あくまで偏在が問題であるという政府の姿勢は批判する必要がある。とりわけ、今回の骨太の方針の前に示された財務省「歴史的転機における財政」の資料では「人口当たり臨床医師数は他国並」などという暴論もみうけられる。引き続き、医師の養成数の引き上げを求める必要がある。
 「医療専門職のタスク・シフト/シェア」については、6月16日に閣議決定された「規制改革実施計画」で「厚生労働省は、高い知識や技術を持つ看護師が在宅領域など地域医療において、...その能力や専門性を発揮できる環境を整備し、患者、医師の負担を軽減する...」、「厚生労働省は、...更なる医師、看護師間でのタスクシェアを推進するための措置について検討する。その際、限定された範囲で診療行為の一部を実施可能な国家資格であるナース・プラクティショナー制度を導入する要望に対して様々な指摘があったことを適切に踏まえるものとする」とされた。
 これらは、医師不足を補うために、看護師の業務範囲を広げるという趣旨に基づいているが、医師はもちろんのこと、看護師も不足している現状で、こうしたタスク・シフトがうまく機能するとは考えがたい。
 日本医療労働組合連合会は「深刻な人員不足である看護師への業務委譲は、さらに医療・看護崩壊を進める本末転倒の対応だと言わざるを得ません」としているし、日本赤十字看護大学の川嶋みどり名誉教授も「医師でも診療科が違えば、診断も治療も難しいのに、看護師が医師の診療の補助の範囲を超えて、医業を行うことへの疑問があります」と指摘している。
 結局、この政策は養成に莫大な予算と時間のかかる医師不足を放置しながら、看護師に医師の業務を肩代わりさせることで、医療費を抑制する政策と言わざるを得ない。
マイナカード前提 問題だらけの医療DX
 「医療DXの推進」については、「マイナンバーカードによるオンライン資格確認の用途拡大」「2024年秋に健康保険証を廃止する」ことなどが記載された。
 今年6月に示された「医療DXの推進に関する工程表」では「マイナンバーカードを健康保険証として利用するオンライン資格確認は、医療DXの基盤である」とされており、「自分自身では必ずしも記憶していない検査結果情報、アレルギー情報等が可視化されることにより、将来的にも安全・安心な医療の受療が可能となる」「切れ目なくより質の高い医療等の効率的な提供が可能となる。さらに、災害や救急時、次の感染症危機を含め、全国いつどの医療機関等にかかっても、必要な医療等の情報が共有されることとなる」等の利点が述べられているが、そもそも任意取得が原則とされているマイナンバーカードの取得・非取得によって、受けられる医療に差がでることは患者にとって大きな問題である。
 工程表で掲げられている「全国医療情報プラットフォーム」によるカルテ情報の医療機関間の共有や医療情報の二次利活用は、極めてセンシティブな医療情報の漏洩リスクを高めるもので、オンライン資格確認すらまともに運用できていない現状では、導入は時期尚早であるといわざるを得ない。
歯科医師・患者に負担のない国民皆歯科健診に向け法案提出を
 歯科分野については「全身の健康と口腔の健康に関する科学的根拠の集積・活用と国民への適切な情報提供」「生涯を通じた歯科健診(いわゆる国民皆歯科健診)」「歯科衛生士・歯科技工士等の人材確保」「市場価格に左右されない歯科用材料の導入を推進する」などが記載された。昨年と同様の書きぶりである。
 昨年の骨太の方針を受けて、自民党の国民皆歯科健診実現プロジェクトチームは今国会に、現行の「定期的な検診」から「生涯にわたる定期的な検診」とし、環境整備に向けた財政措置も盛り込んだ「歯科口腔保健推進法」改正案を議員立法で提出する予定だったが、見送られた。
 これらの実行には、歯科医療費の増額が不可欠であり、より充実した「国民皆歯科健診」、さらに協会が求める「保険でより良い歯科医療」が実施できるように、働きかけを強める必要がある。
 「創薬力強化」については、「医療保険財政の中で、...イノベーションを推進するため、長期収載品等の自己負担の在り方の見直し、検討を進める」「OTC医薬品・OTC検査薬の拡大」「セルフメディケーションの推進」等が盛り込まれた。
 これらは、医療費抑制のために長期収載品の保険外し、処方薬のOTC化を進め、受診を抑制させるというもので、国民の命と健康を脅かすものであり、引き続き反対をしていく必要がある。(おわり)


表 「第4期医療費適正化計画に向けた見直し(案)」の
新たな目標の設定として医療行為の制限も検討されている
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【政策解説(1) 訂正】
 前号掲載した政策解説(1)について、二木立日本福祉大学名誉教授より指摘があり、「『診療報酬・介護報酬改定』に関しては、『次期診療報酬・介護報酬・障害福祉サービス等報酬の同時改定においては、物価高騰・賃金上昇、経営の状況、支え手が減少する中での人材確保の必要性、患者・利用者負担・保険料負担の抑制の必要性を踏まえ』『必要な対応を行う』とされた」とした部分は、「骨太方針2023(原案)」のもので、閣議決定された「骨太の方針」では「次期診療報酬・介護報酬・障害福祉サービス等報酬の同時改定においては、物価高騰・賃金上昇、経営の状況、支え手が減少する中での人材確保の必要性、患者・利用者負担・保険料負担への影響を踏まえ、患者・利用者が必要なサービスが受けられるよう、必要な対応を行う」が正しい記述でした。訂正いたします。
 「患者・利用者負担・保険料負担」について「抑制の必要性」との表現が「影響」とされた点については、各報酬のプラス改定に否定的な表現が緩められており、評価できます。ただ、その後に「患者・利用者が必要なサービスが受けられるよう」との文言が挿入された点については、患者・利用者負担が受診・サービス利用の妨げとならないよう、各報酬の引き上げを否定する表現ともとれるため、表現が緩和されたとはいえ、引き続き各報酬のプラス改定に向けて運動に全力を尽くす必要があると考えます。
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