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政策解説 「骨太の方針2025」協会政策部 医療費4兆円削減を具体化

2025.07.15

 政府は6月13日、政審の方向性や政策を示す「経済財政運営と改革の基本方針2025~『今日より明日はよくなる』と実感できる社会へ~」、いわゆる「骨太の方針」を閣議決定した。多くの問題点を含んでおり、主要な点について解説する。

インフレで生活ひっ迫でも消費税減税を回避

 「骨太の方針」の「第1章 マクロ経済運営の基本的考え方」は、賃上げと経済成長を誇る内容となっている。
 しかし、これらは、円安による輸出競争力の改善、インバウンドの拡大、人口減に起因する慢性的な人手不足からくる賃上げ圧力によるものであり、コストプッシュ型のインフレを招き、国民の暮らしをひっ迫させている。
 国民の生活を守るために求められている消費税減税については、「減税政策よりも賃上げ政策こそが成長戦略の要という基本的考え方の下、既に講じた減税政策に加えて、これから実現する賃上げによって更に手取りが増えるようにする」と、消費税減税の世論を抑え込もうとするものとなっている。

社会保障費抑制を継続

 社会保障政策については、「新自由主義は、グローバル化の進展とあいまって世界経済の成長の原動力となった一方で、経済的格差の拡大...など、市場原理に基づく解決を期待することが困難な問題を顕在化させたとも言われている」「国民の不安を取り除き、安心・安全な暮らしを実現するため、...様々な家計の実態を踏まえた所得再分配機能の強化や格差の是正、...将来への不安の解消に取り組む」とこれまでの新自由主義的政策の誤りを一部認め、所得再分配機能の強化について言及してはいるものの、「持続可能な社会保障制度を構築するための改革を継続」「歳出改革を通じた保険料負担の抑制努力も継続」との文言が散見され、社会保障費抑制政策を転換するものではない。
 実際、医療分野では、医療費を4兆円削減する大方針の下で具体的な改悪案が盛り込まれた(図1)。これまで以上の低医療費政策が実施される可能性が高く、国民の命と健康を危機にさらすものである。
 次期診療報酬改定については、「経営の安定や現場で働く幅広い職種の方々の賃上げに確実につながるよう、的確な対応を行う」としているが、基本診療料の引き上げでなく、ベースアップ評価料のように、一部の医療従事者のみの賃上げを促進するだけでは、地域から医療機関を撤退させることになりかねない。「経営の安定」に向けて基本診療料の大幅引き上げこそが求められている。

医療DX政策とマイナ保険証の強行

 医療DXについては「医療DXの基盤であるマイナ保険証の利用を促進」や「全国医療情報プラットフォームを構築し、電子カルテ情報共有サービスの普及や電子処方箋の利用拡大」に言及している。すでに様々な問題が起き、一部の自治体では、国保加入者全員に資格確認書を発行する事態にまでなっているにもかかわらず、相変わらず「マイナ保険証」に執着して、国民、患者の受療権の侵害をさらに続けるものである。
 加えて、医療機関には専用機器や回線整備の初期費用、運用・保守の継続的な費用負担が発生している。医療機関に具体的な補助等もなく医療DXを進めることは、医療機関経営をさらに追い詰めるものである。

開業規制や医学部定員「適正化」

 医師不足、医師の偏在については、規制的な手法にまで言及している。地域によっては、開業規制や一点単価の引き下げも想定される。そればかりか、「2027年度以降の医学部定員の適正化を進める」としており、医学部定員の削減も示唆している。
 医師の働き方改革に対応するためにも、今こそ、他の先進国レベルの人口当たり医師数を確保すべきである。

歯科分野における前進と今後の課題

 歯科分野については、昨年の骨太の方針と比べ、「糖尿病と歯周病との関係など全身の健康と口腔の健康に関するエビデンスの活用」「歯科技工所の質の担保」「歯科医師の不足する地域の分析等を含めた適切な配置の検討を含む歯科保健医療提供体制構築の推進・強化」という文言が新たに盛り込まれた。
 これは協会・保団連の運動の成果であり、具体化が望まれる。


図1 骨太の方針に盛り込まれた医療制度改悪(案)
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私たちの提案 社会保障充実で経済の好循環へ

 日本の「失われた30年」は、バブル崩壊後の緊縮的な経済運営と、行き過ぎた新自由主義政策に端を発するものである。政府は公共部門の縮小と民営化を推し進め、社会保障支出を抑制すると同時に、大企業に対する法人減税や規制緩和を強化した。
 結果、大企業が利益を株主配当と内部留保に回す一方、労働分配率や設備投資は低下の一途をたどった。この傾向は内需の縮小を引き起こし、経済の縮小均衡を長期化させる要因となった。特に非正規雇用の増加と実質賃金の低迷は、家計の消費を抑制し、結果としてデフレマインドが定着する構造を生み出した。
 この悪循環を断ち切るためには、内部留保を蓄積する企業に対して適正な課税や社会保険料の徴収を行い、国がその資金をいったん回収した上で、社会保障制度の再構築や公共投資の原資とすることが求められる。
 これにより、低所得層への所得再分配が進み、国民の可処分所得が向上すると同時に、将来不安を軽減し、デフレマインドの払拭につながる。OECDも再分配政策の有効性を認めており、経済全体の安定化と成長への寄与を明示している。
 特に医療・介護分野は、製造業、卸売・小売業に次ぐ第3位の雇用規模を持ち、全国的に広く分布していることから、地域経済の基盤を成す重要な産業である。実際に地方の中には総雇用の30%近くを医療・介護分野が支えている地域も存在する。地域で安定した雇用が確保されることで、東京一極集中の是正や地方の人口減対策にもつながる。
 医療・介護分野を含む公共的インフラへの大規模投資が行われ、全国で安定した雇用と賃金引き上げが実現されることで、日本全体の個人消費は底上げされ、企業は外需に依存しない安定的な国内市場を得ることができる。その結果として企業も安定した利益を確保し、社会保障財源と労働分配の原資がさらに拡充されるという好循環が生まれるのである(図2)。
 しかし、現行の「骨太の方針」では、社会保障費の抑制は当然視され、縮小する市場においてイノベーション創出を期待するような供給主導型政策が依然として重視されている。これはまさに新自由主義的政策からの脱却がなされていないことを示している。いま求められるのは、内需拡大と再分配を柱とする政策への根本的転換である。


図2 社会保障の充実により実現する経済の好循環
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