兵庫県保険医協会

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第52回総会での理事長あいさつ

2020.06.21

(2020年6月21日 於:兵庫県保険医協会会議室)

 本日はお忙しい中、第52回総会にご列席いただきありがとうございます。また、会員の皆様には、平素より協会の活動にご理解・ご協力を賜り、厚くお礼申し上げます。
 最初に、新型コロナウイルス感染症で亡くなられた方のご冥福をお祈りするとともに、現在も闘病されている方々にお見舞い申し上げます。
 また、新型コロナウイルス感染症が拡大した際には、感染の危険性と、誹謗中傷や風評被害の不安の中、医療者としての使命と責任と覚悟をもって、献身的に医療を行ってきた会員、従業員の皆様に対し、心より敬意を表し、感謝いたします。
 最近の情勢について、若干の所感を述べさせていただきます。
 この度、新型コロナウイルス感染症が蔓延し、日本国中が、不安と恐怖のなか、移動と接触を制限されるという、かつてない不自由な生活を余儀なくされました。
 そのような状況のなか、複数の大規模基幹病院が診療中止に追い込まれ、都市部を中心に「医療崩壊」寸前の事態に陥りました。
 歴史上、急激な医療崩壊の原因は、災害と感染症です。今回の新型コロナウイルスの感染拡大は、まさに医療の有事であり、疾病のひとつである感染症が広がることによって、医療が崩壊するなど、何のための医療なのか。決してあってはならないことです。このような時にこそ、国民の命と健康を守らなくてはなりません。
 感染症の制御には、早期の発見、診断、隔離、治療が重要ですが、PCR検査に象徴されるように、人材・機材の不足、組織体制の不備と脆弱さ、連携の不手際、さらには、保健所、感染症病床の不足、症状に応じた施設の準備不足もあらわとなりました。
 日本の感染者及び死亡者の数は、欧米に比べると格段に少ないのですが、東アジア諸国と比べるとそれほど優等生ではありません。この要因として、文化的習慣、クラスター対策、高い医療水準、特に国民皆保険制度による医療へのアクセスの良さなど、種々推測されていますが、それだけでは説明できません。いわゆる「ファクターX」に関して、冷静な科学的分析が必要で、「民度」というような非科学的な感触を鵜呑みにするのは危険です。
 確かな情報と分析、十分な体制の整備なくしては、第2波を制御することはできません。
 各医療機関においては、新型コロナウイルスへの集中的対応、手術・検査・健診・予防接種などの延期要請、国民への自粛要請、ワイドショーなどに見られる一面的な報道等により「受診抑制」「患者数減少」が一気に進み、国民への「医療提供量」は、皆保険制度成立以来経験したことのない大幅な減少となりました。
 本会のアンケート調査でも、医科・歯科共に患者数、医業収益が大幅に低下し、しかも現在進行中で、急激な回復は望めません。「受診抑制」により患者さんの健康状態が悪化した例も多く認められました。
 特に歯科は、受診抑制による経営状況悪化傾向が著しく、短期の受診抑制であっても口腔の健康に及ぼす影響が大きく、その改善には緊急的、かつ有効な対策が必要です。また、委託技工も大幅に減少し、その量と質の確保の点から、早急に改善すべき課題です。
 国民に安心、安全、質の高い医療を提供し、その健康な生活を維持するためには、医療機関の安定した経営、途切れることのない日常診療の提供が必要です。
 政府は、この状況に対し「緊急経済対策」を決定し、その後補正予算も組みましたが、医療提供体制の強化には、即効性がなくその額も不十分です。
 また、政府は、緊急事態宣言下においても、「すべての医療関係者の事業継続を要請する」としましたが、保険医療機関の経営悪化について、減収補填を行わない姿勢です。これは、医療機関に経営悪化の責任を押し付け、国民皆保険制度における国の責任を放棄するものです。高い公共性と非営利性を有する医療において、要請と補償はセットであるべきです。
 私たちが補償要求の中心とする、いわゆる「概算請求」は、簡素で公平で、即効性と透明性を有しています。その基本的考え方は、近々政策解説を出しますので、ぜひお目通しの上、ご理解ご賛同願います。
 さて、今回の新型コロナウイルス感染症は、新自由主義とクローバリズムに警鐘を鳴らしました。
 新自由主義は、自己責任を基本に小さな政府を推進し、福祉・公共サービスなどの縮小、公営事業の民営化、グローバル化を前提とし、規制緩和による競争促進、労働者保護廃止など、競争志向を正統化するための市場原理主義からなる経済体制です。
 経済、財政を優先させ「採算性」「改革」「効率化」という名のもとに、医療や福祉、教育といった、市場化すべきでない部門も削減対象とし、国家による富の再分配を毀損し、貧困と格差をもたらしました。
 今回、この新自由主義とグローバリズムのひずみが一気に表出し、社会的弱者を、これまで以上に命と健康の危機にさらしています。
 一方で、危機は、権力に利用されやすいのは歴史の教えるところです。このような時に、民意は、安全と秩序を維持するため、権力集中や強い命令や措置、国民の監視を求め、全体主義的なリーダーに頼りがちです。全国の首長のなかには、トップダウン方式で露出を高め、人気を集める傾向が見受けられます。
 幸い、現政権は、度重なる不祥事、不手際により、その支持率は低下しています。
 ただ、国において、いわゆる共謀罪法、秘密保護法、マイナンバー法など、着々と国家による国民監視が強化されています。有事を理由に国民の主権を犠牲にしてはなりません。ましてや憲法に「緊急事態条項」を加えるなど、根拠を欠く「火事場泥棒的」な動きは看過できません。
 本来、政府と国民の信頼と支持の醸成には、正当性、説明責任、透明性が必須ですが、現在の政府はこれらを欠いています。
 しかし一方で、有事の際に、国民が人、住居、地域社会、組織、資産などの安全や保護を求める、つまり「セキュリティ」を求める気持ちは、「ソシアル・セキュリティ」の言葉通り社会保障を求める思い、そのものであり、その充実の好機でもあります。
 日本の医療は、長く続く医療費抑制政策に基づき、診療報酬、医師数、病院数、病床数の削減を押しすすめ、G7で最小数の医師が、過労死に達する労働時間で、献身的努力によって支えてきました。
 今回、世界各国並びに日本の感染状況から、医療提供体制の重要性と余力不足を、国民が危機感を持って知りました。
 大規模災害や感染症蔓延などの際に、医療が崩壊しないためには、平時より充実した、余裕をもった医療提供体制の整備が必要です。
 国民の命と健康を守る医師・歯科医師として、厳しい医療費抑制政策を見直し、医療提供体制を拡充し、有事の際の医療の重要性を知った国民と手を取り、共に活動しなければなりません。この事こそ本来の民主主義の基本的な姿です。
 私ども執行部は、「開業医の生活と権利を守」り、「患者・住民とともに地域医療の充実・向上をめざ」し、コロナ危機の中、さらに運動を強化していきたいと思います。
 この後、コロナ禍への対応を含めた、昨年度1年間の協会の具体的活動をご報告し、新年度の「活動方針案」「予算編成方針と予算案」をご提案いたします。
 最後に、これまでと変わらない、会員の皆様のご理解とご協力、ご指導・ご鞭撻のほどをお願いいたしまして、ご挨拶とさせていただきます。ご清聴ありがとうございました。

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